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2025年9月24日 (水)

「サブスタンス」  (VOD)

Thesubstance 2024年・イギリス=フランス合作  142分
製作:Working Title=Blacksmith
配給:ギャガ
原題:The Substance
監督:コラリー・ファルジャ
脚本:コラリー・ファルジャ
撮影:ベンジャミン・クラカン
音楽:ラファーティ
製作:コラリー・ファルジャ、ティム・ビーバン、エリック・フェルナー
製作総指揮:ニコラ・ロワイエ、アレクサンドラ・ロウイ

若さと美貌の衰えを気に病んだ元人気女優の姿を描いた狂気のホラー・エンターテインメント。監督は「REVENGE リベンジ」のコラリー・ファルジャ。主演は「ソングバード」のデミ・ムーア。共演は「憐れみの3章」のマーガレット・クアリー、「僕のワンダフル・ジャーニー」のデニス・クエイド。
2024年・第77回カンヌ国際映画祭コンペティション部門で脚本賞を受賞。第75回アカデミー賞では作品賞のほか計5部門にノミネートされ、メイクアップ&ヘアスタイリング賞を受賞。

(物語)50歳の誕生日を迎えた往年の人気女優エリザベス・スパークル(デミ・ムーア)は、容姿の衰えによって仕事が減っていくことを気に病み、ある違法の再生医療“サブスタンス”に挑戦する。薬品を注射するやいなや、エリザベスの背を突き破り、上位互換体“スー”(マーガレット・クアリー)が出現。スーはその若さと美貌に加え、エリザベスの経験を武器にたちまちスターダムを駆け上がって行く。一つの心をシェアする二人には“一週間ごとに入れ替わらなければならない”という絶対的なルールがあったが、スーは次第にそのルールを破り始める…。

年齢と共に美貌が衰えて行く事に不安を抱く女優が、若さを取り戻す事に執着し、そこから破綻が生じて行く、というよくあるパターンの作品。最近ではロバート・ゼメキス監督「永遠に美しく…」(1992)が記憶に新しい。ちなみに男性版ではオスカー・ワイルド原作の「ドリアン・グレイの肖像」があり、1945年以来何度も映画化されている。
美貌が衰えて来た女優が次第に狂気に陥って行くという作品では、ビリー・ワイルダー監督の「サンセット大通り」やロバート・アルドリッチ監督「何がジェーンに起こったか?」等が有名。それぞれ往年の美人女優(グロリア・スワンソン、ベティ・デイヴィス)が体当たりの熱演だった。

本作はそうした諸作品からヒントを得ていると思われるが、上記の作品はいずれも男性の監督、脚本家が手がけている。本作の監督は女性のコラリー・ファルジャ。つまり本作はこのジャンルでは(おそらく)初めての女性脚本・監督という事になる。

「ゴースト ニューヨークの幻」(1990)の主演で大人気となったデミ・ムーア。その後も「素顔のままで」(96)、「G・I・ジェーン」(97)などの主演作があるものの、近年は助演に回ることが多く、最近ではとんと名前を聞かなくなった。本作ではフルヌードを晒しての熱演で、見事ゴールデングローブ賞の主演女優賞(ミュージカル/コメディ部門)受賞を果たし、アカデミー賞でも主演女優賞にノミネートされ、存在感を示した。

(以下ネタバレあり)

冒頭の、主人公エリザベスの名が刻まれたハリウッド名物ウォーク・オブ・フェイムが、絶頂期からやがて名前が忘れられ、ヒビが入り汚れて行くまでを定点観測で写したシーンが印象的。エリザベスの栄枯盛衰ぶりを端的に説明している。なかなか秀逸な出だしだ。

50歳になり、女優で売れなくなったエリザベスは、テレビのエアロビクス番組が唯一の仕事だったが、プロデューサーのハーヴェイ(デニス・クエイド)は番組打ち切りを彼女に伝える。
実際年齢は62歳!のデミ・ムーア、アップで撮るとさすがにシワが目立つが、年齢の割には今でも美しい。50歳でも十分通用する。

通りのビルの外壁にはエリザベスの巨大肖像が掲げられていたが、車で通りがかったエリザベスはそれが剥がされているのを目撃して落ち込み、それに気を取られて自動車事故を起こしてしまう。弱り目に祟り目だ。運び込まれた病院の診断では軽傷だったのがせめてもの幸い。
その病院でエリザベスの体を診た若い看護師は、「ザ・サブスタンス」と書かれたUSBメモリを彼女に渡す。

帰ってそのUSBをテレビに差し込むと、「サブスタンスを投薬すると、より若く、より美しい体を手に入れられる」とのCMが流れる。

半信半疑だったものの、“若く美しい体を手に入れられる”その言葉に魅入られてエリザベスはその薬=サブスタンスを購入し、体内に注入する。
すると、体に異変が生じ、背中がパックリと割れて、そこから若く美しい女性(マーガレット・クアリー)が現れる。

背中には背骨が通っているし内臓もあるのに、まるでセミの脱皮のごとく別の人間が現れる…それだけでこの映画はホラ話だと宣言しているわけだ。後はもう何が起きても不思議ではない。

若い女性の方も頭の中はエリザベスなのだが、まさか同じ名前を名乗る訳には行かないので、「スー」と名乗るようになる。

この薬にはいくつかの制約がある。本体の薬の注入は1度きり。1週間ごとに両者は入れ替わらなければならず、片方が活動している間は、もう片方は眠ったままで行動出来ない。その間は毎日1回、栄養剤を注入する。ルールを破れば体に異変が起きてしまう。

スーはテレビ局のオーディションを受け、エリザベスの後釜のエアロビクス番組出演を果たすのだが、美しい美貌に、セクシャルな体の動きでたちまち人気者になる。

そしてスーは、美貌を売りにさらなる上昇を目指す。やがてハーヴェイは彼女を大晦日の一大イベントの司会に抜擢する。スーは有頂天。
だが、1週間ごとに入れ替わるシステムが煩わしくなったスーは、次第にそのルールを破るようになる。
それによってエリザベスの体に異変が起こり、体がどんどん老いさらばえて行く。エリザベスはスーの暴走を止めようとし、やがてそれは二人の果てしなき殺し合いへとエスカレートして行く。

後半の、髪の毛も抜け、醜悪な形相になったエリザベスとスーのキャットファイトがまた壮絶。エリザベスは血まみれとなり、スーに小突かれ蹴られ、絶命して行く。
デミ・ムーアのメイクアップが凄いことになってる。醜怪極まりない。よくこんな役を引き受けたものだ。エラい。

だが、スーの体にも異変が生じる。体の一部が欠け始めたのだ。年末イベントにどうしても出たい彼女は、禁断の二度目の投薬に踏み切ってしまう。そしてスーの体を破って現れたものは…。


終盤の年末イベント会場を舞台にしての阿鼻叫喚騒動は、あらゆるホラー・スプラッター映画のオマージュてんこ盛りで、そこまでやるかーと呆れるやら笑えるやら(誉め言葉(笑))。
思いつくだけでも、グロテスクな怪物デザインはF・ヘネンロッター監督の「バスケットケース」、D・クローネンバーグ監督「ザ・フライ」、もの凄い血しぶきシャワーはピーター・ジャクソン監督の「ブレインデッド」、人間の背中から脱皮を思わせる人間誕生はアレックス・ガーランド監督「MEN 同じ顔の男たち」、最後の背中に顔が張り付いた肉体の残滓はJ・カーペンター監督の「遊星からの物体Ⅹ」等々。
他にも、シンメトリー構図の赤い廊下はS・キューブリック監督「シャイニング」の引用だし、ご丁寧に「2001年 宇宙の旅」の“ツァラトゥストラはかく語りき”まで流れてくる。古い映画ファンなら大喜びしたくなる。

だが本作が素晴らしいのは、そうしたホラー・SF映画オマージュだけでなく、女性をルッキズムの対象としか見なかったり、性の奴隷扱いする男性中心の芸能界への痛烈な批判(デニス・クエイド扮する俗悪プロデューサーの名前がハーヴェイなのは無論、#Me Too運動で制裁される事となったあの人への当てつけ)が込められている。
さらに返す刀で、女性側も美貌を武器にライバルを蹴落とそうとする意思が働いてはいないか、若さを保とうと美容整形に頼ったりはしていないか、といった、女性たちの哀しき性(さが)に対する批判もきちんと行っているようにも思える。女性監督ならではの視点と言えよう。

それらを盛り込んだ上で、ブラックな笑いやパロディも交えてエンタティンメントとしても成立させているのが素晴らしい。コラリー・ファルジャ監督、あっぱれである。

ラスト、あのウォーク・オブ・フェイムの上にたどり着いた、顔だけになったエリザベスが、やっと安らぎを得たかのように微笑んで消えて行くシーンにはつい涙を誘われた。

デミ・ムーアとマーガレット・クアリーの、ヘア丸出しの体当たり熱演も高く評価したい。デニス・クエイドの怪演も褒めておきたい。

グロテスクなシーンが弱い人は要注意だが、テーマがしっかりしているので鑑賞後感は爽やかでさえある。本年屈指の力作としてお奨めである。    (採点=★★★★☆

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…観たいと思いながら時間がどうしても合わずに見逃してしまった。残念に思っていたら、アマプラで早くも鑑賞出来たのはありがたい。本当はあまり配信に頼りたくはないのだが…。

 

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コメント

これを観たならぜひ「愛はステロイド」を観てほしいです。

ストーリーは全然違うんですが、何というか感触が似てます。

投稿: タニプロ | 2025年9月29日 (月) 19:42

◆タニプロさん
「愛はステロイド」、見ようと思ってたのですが、知らないうちに上映終わってました。そう言えば、評論家の高森郁哉氏が「サブスタンス」との共通性について書いてましたね。

投稿: Kei(管理人 ) | 2025年10月11日 (土) 12:47

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