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2025年10月 8日 (水)

「宝島」 (2025)

Herosisland 2025年・日本   191分
製作:電通=講談社=東映
配給:東映、ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
監督:大友啓史
原作:真藤順丈
脚本:高田亮、大友啓史、大浦光太
撮影:相馬大輔
音楽:佐藤直紀
企画・プロデュース:五十嵐真志
エグゼクティブプロデューサー:石黒研三、佐倉寛二郎、ルーシー・Y・キム
プロデューサー:野村敏哉、角田朝雄、福島聡司

第160回直木賞を受賞した真藤順丈の小説「宝島」を映画化。戦後の沖縄を舞台に、時代に抗う若者たちの姿を鮮烈に描く。監督は「レジェンド&バタフライ」の大友啓史。主演は「ある男」の妻夫木聡。共演は「遠い山なみの光」の広瀬すず、「ある男」の窪田正孝、「怪物」の永山瑛太、「斬、」の塚本晋也など。

(物語)1952年、アメリカ統治下の沖縄で、米軍基地を襲撃して物資を奪い、住民らに分け与える“戦果アギヤー”と呼ばれる若者たちがいた。幼馴染のグスク(妻夫木聡)、ヤマコ(広瀬すず)、レイ(窪田正孝)の3人と、彼らの英雄的存在であり、リーダーとして皆を引っ張っていた一番年上のオン(永山瑛太)は、いつかでっかい戦果を上げることを夢見ていた。全てを懸けて臨んだある襲撃の夜、オンは突然消息を絶ってしまう。残された3人は、オンの影を追いながら、やがてグスクは刑事に、ヤマコは教師に、そしてレイはヤクザにと、それぞれの道を歩み始める。しかしアメリカに支配され、本土からも見捨てられた環境では何も思い通りにならない現実に、彼らは住民共々、やり場のない怒りを募らせて行く。そしてある事件をきっかけに、抑えていた感情が爆発する…。

3時間超えの上映時間に、実力派若手俳優が結集、原作はベストセラーと、現在も続映中の「国宝」と比較され話題となっている作品。ついでに題名が漢字2文字で、どちらも“宝”が含まれる所まで共通している。

コロナ禍による2度の製作延期を経て、6年がかりでようやく完成したそうだ。その為か総制作費は25億円もかかっている。近年の日本映画でも稀に見る超大作だ。

これは今年を代表する秀作になるのではと期待して劇場に足を運んだ。

(以下ネタバレあり)

冒頭いきなり、逃げる主人公たちと米軍との壮絶なカーチェイスが始まる。その途中にストップモーションでグスクのナレーションが入り、オン、グスク、レイ、ヤマコの逃げる若者たち4人の横顔が手短かに紹介される。
いかにも映画らしいダイナミックさで、導入部のツカミとしては申し分ない。

その後米軍に捕まりそうになって仲間は散り散りになるが、オンが行方不明となり、残された3人は消えたオンの消息を追いながら、やがてグスクは刑事に、レイはヤクザ者に、ヤマコは小学校の教師とそれぞれの道を進みながら、激動の時代の中で成長して行く。

そうした青春群像の物語を縦軸に、その間並行して基地の街コザを中心に、米兵による犯罪、殺人、小学校への米軍機墜落事件などの沖縄で実際に起きた事件を横軸として描いて行き、最後は沖縄島民の怒りが爆発したコザ暴動事件がクライマックスとなる。

なんとも壮大なスケールの映画である。特にラストのコザ暴動シーンは、広大なオープンセットを建て、数台のアメ車を用意し、エキストラ5,000人を動員した事もあって凄まじい熱量が感じられ、見応えがある。大友監督の演出にも相当力が入っている。


とまあ、良い所も沢山あり、本来なら高く評価したい…所だが、残念な事にあちこち問題点が多い。

まず、沖縄弁交じりの早口のセリフが聴き取りにくい。私は前もってあらすじだけは読んでいたので、何度か出て来る「戦果アギヤー」も大体判ったが、予備知識なしで観たらついて行けないだろう。故に沖縄弁の所には絶対字幕を入れるべきだった。

それと、原作では丁寧に語られているのだろうが、戦果アギヤーのリーダーであるオンが、どういうプロセスでグスクやレイ、ヤマコたちから心酔されるほどの英雄的存在となったのかがよく分からない。膨大な原作だから、いくつかのエピソードはカットせざるを得ないだろうが、そこは物語の重要なポイントだからちゃんと描いておくべきだろう。

またグスクが洞窟(ガマ)に入った時に、白骨の山を見てパニックになる描写があるが、刑事なら死体も見てるだろうに、なぜそうなったのか判らない。
これも原作では、彼が大戦末期の集団自決の生き残りだった事が描かれていて、これがある事で、そのパニックの理由も、孤児だったグスクがオンを慕うようになる経緯も観客によく伝わる事となる。これも絶対に省いてはいけない。短いフラッシュ・カットの回想でテキパキ描けば1分もあれば足りるはずだ。時間がないは言い訳にならない。

そして一番問題なのは、公式ページや映画紹介サイトのあらすじで、最後に、「やがて、オンが基地から持ち出した“何か”を追い、米軍も動き出す―。消えた英雄が手にした“予定外の戦果”とは何だったのか?そして、20年の歳月を経て明かされる衝撃の真実とは―」と、いかにもミステリー的な謎をほのめかしている点。
“基地から持ち出した何か”、“米軍も動き出す”と、いかにも“米軍基地で厳重に管理された機密情報あるいは兵器”ではないかと想像してしまう。実際には女性が産み落とした赤ん坊(後のウタ(栄莉弥))だったというオチには拍子抜け。米軍も動き出すなんていいかげんにも程がある(原作はどうなっているのだろうか)。こんなミスリード・ネタで冒頭から最後まで3時間引っぱる脚本も問題だ。

せっかくのコザ暴動の迫力に興奮した後で、レイの基地侵入から始まるシークェンスが延々と長くてダレる。そもそもレイが毒ガスを基地内でバラ撒こうなんて、いくら米軍基地への怒りだとしてもとんでもない事だ。それをやって何が変わるのか。ガスがコザの街まで流れれば沖縄市民にも死者が出る。オウムのサリン事件と同じことをやろうとしている。オンはそんなテロ行為、望んでいないだろう。それをグスクが阻止しようとするくだりもモタモタしてる。

その後、米軍に撃たれかけたレイをウタが身を挺して庇うのもよく分からない。ウタがレイを慕っている描写はあるが、命を懸けてまで救う間柄とは思えない。
その後の展開もやたらダラとダラしまりがない。ウタ重傷なんだから早く病院に運べよ。オンの白骨見つけたはいいが、こんな所で長々と回想入れるなよ。レイ、あのままじゃ凶悪犯として指名手配されるよ。ウタの葬式もやってやれよ。…とまあツッコミどころが満載だ。

結局レイがどうなったかも描かれないまま、グスクの未来に希望を持たせるような言葉で映画は終わる。


大友啓史監督の演出も、良い所もあるが全体としては力足らずの出来だった。脚本も悪い。こんなシナリオでいいのかどうか、徹底的に練り直すべきだった。

そもそも大友監督作品は、「るろうに剣心」シリーズは面白かったが、それ以外にロクな作品がない。「プラチナデータ」(2012)、「秘密 THE TOP SECRET」(2016)、「影裏」(2020)、「レジェンド&バタフライ」(2023)。いずれも私のワーストテン入りだ。

もっと別のベストテン常連の骨太作品を作れる監督(李相日、石川慶、阪本順治、濱口竜介etc,,)に撮らせれば秀作になったかも知れない。惜しい。

ただし、沖縄が抱える基地問題、暴動にまで発展してしまう沖縄県民の怒り、といった社会派的テーマを、予算をかけてきちんと描いた点は大いに評価したい。せめて上映時間は2時間半くらいに収め、オンの骨を見つけるエピソードはもっと前に持って来て、コザ暴動が終息した夜明けのシーンで幕を閉じたなら、私は4.5から5の間くらいには点数をあげたいと思う。

俳優陣もよく頑張っている。妻夫木聡が力演。広瀬すずが「遠い山なみの光」に続いて昭和を生きる女性を好演。いい女優になった。偶然だがこれも本作も、どちらも1952年から物語がスタートしている。永山瑛太はもう少し出番を多くして欲しかった。

今もなお興行成績上位にいる「国宝」とは対照的に、本作は1週目で7位、2週目で9位で3週目には圏外と興行は惨敗。大幅な赤字になるのは間違いない。大ヒット作にスクリーンが占有されている時期の公開も不運だけど。こういう映画はヒットして欲しいのだが。

いろいろ批判したが、こういうエンタメ性と社会性を兼ね備えた作品は作られるべきであるし、いい脚本、監督を揃えてこれからもチャレンジして欲しい。製作にゴーサインを出した東映の英断にも感謝したい。という事で点数はやや甘く。   (採点=★★★★

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コメント

 コザ暴動などスケール感があり、役者も頑張っていて期待させましたが、分かりにくい点や冗漫な部分があり、傑作になり損ねましたね。登場人物を少し整理した方が良かったかも。妻夫木がいつの間にか結婚して子どもまでいるところとか、本筋に関係ないし。

投稿: 自称歴史家 | 2025年10月 9日 (木) 17:17

◆自称歴史家 さん
そうなんですよね。例えばピエール瀧らのヤクザ組織の描写はもっと刈り込むべきですし、各戸にガスマスクを配るくだりもあまり意味がないし不要ですね。
やっぱり問題は脚本が良くない。同じ長時間ものでも「国宝」は、脚本の奥寺佐渡子さんが長い原作から不要シーンを絶妙にバッサバッサとカットして引き締まった作品になってました。
膨大な量の原作を映画化に際し纏め上げるお手本のような名シナリオです。他の脚本家も見習って欲しいですね。

投稿: Kei(管理人 ) | 2025年10月11日 (土) 12:33

いっそ、オンのことはほったらかしてコザ騒動のところで終わればまだ良かったかも。その後、今までのリアルが嘘のようにご都合主義だし、映像は妙にしょぼいし、まさに長いし、えーっ、映画の着地、そこ?ってなっちゃたんですよね。回想中にさらに回想が入るは、沖縄言葉が全くわからないわで、早々挫折しかけたけれど、途中のリアルさとか役者陣の演技とかでかなり気分的には盛り返したんですが・・・・。

投稿: オサムシ | 2025年10月11日 (土) 16:43

◆オサムシさん
ほぼ私と同意見ですね。ありがとうございます。
絶賛している批評家も多いですけど、部分的にはいい所も多いですが、最後に感動を与えてくれなければ秀作とは言えないですね。
でもこんなに客が入らないとは意外でした。こういう映画が当たってくれないと、劇場がますますアニメやテレビのヒットものの続編ばかりになりそうで、映画ファンとしては心配なんですけどね。

投稿: Kei(管理人 ) | 2025年10月14日 (火) 09:58

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