「ハウス・オブ・ダイナマイト」
2025年・アメリカ 112分
製作:First Light Pictures=Kingsgate Films
提供:Netflix
原題:A House of Dynamite
監督:キャスリン・ビグロー
脚本:ノア・オッペンハイム
撮影:バリー・アクロイド
音楽:フォルカー・ベルテルマン
製作:グレッグ・シャピロ、キャスリン・ビグロー、ノア・オッペンハイム
製作総指揮:ブライアン・ベル、サラ・ブレムナー
出所不明の一発のミサイルが突然アメリカに向けて発射された事に始まる緊迫のポリティカル・サスペンス。監督は「デトロイト」以来8年ぶりとなるキャスリン・ビグロー。出演は「デューン 砂の惑星PART2」のレベッカ・ファーガソン、「アラビアンナイト 三千年の願い」のイドリス・エルバ、「ヒルビリー・エレジー 郷愁の哀歌」のガブリエル・バッソ、「トロン:アレス」のグレタ・リー、「モービウス」のジャレッド・ハリスら豪華キャストが集結した。第82回ベネチア国際映画祭コンペティション部門出品。Netflixの配信に先駆けて一部で劇場公開された。
(物語)ごくありふれた一日になるはずだったある日、出所不明の一発のミサイルが突然アメリカに向けて発射される。アメリカに壊滅的な打撃を与える可能性を秘めたそのミサイルは、一体誰が発射したのか、そして、いかに対処すべきなのか。ホワイトハウスをはじめとした米国政府は混乱に陥り、そうする間にも刻々とタイムリミットが迫る…。
「ハート・ロッカー」(2008)で女性監督として初めてアカデミー監督賞を受賞し、その後もアカデミー賞5部門にノミネートされた「ゼロ・ダーク・サーティ」(2012)などの秀作を発表して来たキャスリン・ビグロー監督。前作も1967年のデトロイト暴動事件を扱った「デトロイト」(2017)と、いずれも政治色の強い問題作ばかりである。そのせいか寡作で、前作から8年も間隔が空いてしまった。
そして新作となる本作もまた、核抑止戦略の危険な現実を暴露するポリティカル・サスペンスの問題作である。その為かどこの映画会社も手を出さず、Netflixが引き受け10月24日から配信される事となったが、10月10日から一部の劇場でも先行公開される事となった。
(以下ネタバレあり)
物語は、出所不明のICBMミサイルがアメリカに向けて発射されたとの情報検知に始まり、そのミサイルが着弾するまでの19分間の各政府関係部門の対応ぶりを、3つの視点から繰り返し描かれる。
第一パートは、ホワイトハウス・危機管理室の責任者、オリビア・ウォーカー大佐(レベッカ・ファーガソン)の視点で、大統領、リード・ベイカー国防長官(ジャレッド・ハリス)との相互連絡、情報収集、迎撃ミサイル発射と続く緊迫した進捗状況を描いて行く。
リモート会議のパネルには各部門責任者の一覧映像がオンラインで表示されているが、何故か大統領(POTUSと表示)の所だけ黒味のまま。その理由は後に明らかになる。
ミサイルの発射地点は、極東地域という事だけが判明していて、どこの国かは不明。おそらくロシア、中国、北朝鮮のどれかだろうと推測される。
「北朝鮮の実験軌道に一致」という情報連絡もあったり、「ロシアは関与を否定し、北朝鮮と見ている」とのセリフもある。フィクションとは言え、大胆な脚本だ。
到達地点の絞り込みも行われ、最終的にシカゴが着弾地と判明する。
迎撃ミサイル発射基地はアラスカとカリフォルニアの2か所だけだそうだ。もっとあるかと思ったが意外に少ない。すぐに2発の迎撃ミサイルが発射されるが、どちらも迎撃に失敗し、ミサイルはシカゴに向かって飛んで来る。もう迎撃は不可能だ。
迎撃ミサイル責任者のダニー・ゴンザレス少佐(アンソニー・ラモス)は極度の緊張から、外に飛び出して嘔吐したりする。
シカゴ市民を避難させるにしても、たった10数分で何が出来るのか。ウォーカー大佐たち関係者が絶望的な空気となった所で第一パートが終わる。
19分というのは、ミサイルがアメリカに向かっていると確認されてから着弾までの時間なので、各パートの上映時間は35~6分程度だろう。
第二パートは、米戦略軍司令部のブレイディ大将(トレイシー・レッツ)と、ジェイク・バリントン安保副補佐官(ガブリエル・バッソ)が中心となる。ここでは北朝鮮と見せかけたロシアの関与も囁かれている。第一パートと同じセリフが違う場面で繰り返されるが、新しい情報も提示されるので緊迫感は持続する。
ここでは、なぜ迎撃が失敗したのか、その真実が明らかになる。実は迎撃ミサイルが命中する確率は61%なのだそうだ。かなり精度は低い。国防長官は「コイントスみたいなものだ」と言い、バリントン副補佐官は「弾丸で弾丸を撃つようなものです」と言う。もっと迎撃ミサイルを発射すればと思うが、アメリカ国内には迎撃ミサイルは44発しかないらしく、次の迎撃に備えて残して置く必要があるのだと言う。
実際の防空システムとはそんな脆弱なもののようだ。
緊張感が高まるのは、大統領は会議中という事で、対応を任されたバリントン副補佐官とロシア外相との電話対談のシーン。
ロシアは、アメリカが自国に対し報復しないと約束せよ、他国に報復する場合でもロシアの領空を侵犯しないと保証しろと迫る。バリントンは緊張のあまり「妻が妊娠中…」と口走ってしまう。まさに凄い緊迫感だ。一歩誤れば第三次世界大戦にもなりかねない。
中国だ北朝鮮だとバンバン実名が出て来るのもリアル感がある。
バリントン副補佐官は大統領に状況を伝え、報復はしないように言うが、大統領は「一切報復しないなら、それは“降伏”と同じでは」と問う。バリントンは「報復するという事は、“自殺”と同じです」と返す。このやり取りも考えさせられる。
そうしている間にも、核の報復攻撃の準備が進む。
そして最後の第三パート、ここでやっと大統領(イドリス・エルバ)の姿が見える。黒人大統領だった。モニターに姿が見えなかったのは、この日バスケット・ボール試合観戦に訪れていたからだ。大統領が子供たちとのんびりシュートの投げ合いごっこするシーンがある。
9.11の時、ブッシュ大統領が小学校で子供たちと談笑していたのを思い出す。
ミサイルがアメリカに向かっているとの情報に慌てて大統領一行は引き返すが、「アメリカが攻撃を受けた」とのセリフがあるのでいやでも9.11を思い出す。あの時もアメリカは即座にイラクに報復したんだっけ。
ベイカー国防長官は報告を受け、娘がシカゴにいる事を思い出して側近に「州のヘリを出して娘を避難させろ」と命令するのがおかしい。市民よりも身内を優先させる呆れた国防長官だ。
大統領は車の中で攻撃アドバイザーのリーブス少佐(ジョナ・ハウアー=キング)から、「報復の手順書」の内容を聞かされる。「報復の攻撃方法は3段階あって、選択、限定、全面、どれを選びますか」と大統領に聞く。「分かり易く言えばレア、ミデイアム、ウェルダン」とのセリフがあってこれも笑える。
大統領はどう対処していいか悩み、国防長官に聞くが、国防長官も答えられない。誰もが決断できないまま、タイムリミットが近づいて行く。
大統領は「“世界は爆弾の詰まった家(A House of Dynamite)のようなもの”と聞いた事がある」と語る。これが題名の由来となっている。
世界各国はそれぞれ核を保有しているが、それは大量の爆弾が詰まった家で、ヘタすれば壁は吹き飛ぶ、それでも住み続ける…これでいいのかと、映画は問い続ける。
結末は描かれない。ICBMは本物だったのか、核は爆発したのか、大統領は報復を決意したのか、いずれも解からないままだ。その結末は観客自身で判断して欲しいという事なのだろう。
凄い映画だった。緊張感は半端ではない。本当にこんな事が起きたら、アメリカは冷静に対応出来るのだろうか、危なっかしいものだ。特に強気のトランプ大統領が核のボタンを握っている今の現実は、映画より恐ろしい。
アメリカだけでなく、世界にはおびただしい数の核兵器がある。どの国も“核抑止力”があるから核戦争は起きないと思い込んでいる。だが本当に核兵器を持つことが抑止に繋がっているのだろうか。映画はその事を強く訴えかけている。
唯一の被爆国である日本の国民も、こうした不都合な真実は知っておくべきだろう。アメリカの核の傘に守られているだけでいいのか、みんなで考えて欲しい。
その意味でも、これはぜひ多くの人に観て欲しい秀作である。だが、劇場公開は一部の劇場で、しかもほとんど宣伝もされないまま短期間上映で、もう終わっているところも多い、とても残念だ。
ともあれ、Netflix作品とは言え、こんな現実のアメリカ防衛戦略に痛烈な批判を浴びせる問題作を作り上げたキャスリン・ビグロー監督には素直に敬意を表したい。観るべし。 (採点=★★★★☆)
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