「ワン・バトル・アフター・アナザー」
2025年・アメリカ 162分
製作:Ghoulardi Film Company
配給:ワーナー・ブラザース映画
原題:One Battle After Another
監督:ポール・トーマス・アンダーソン
原作:トマス・ピンチョン
脚本:ポール・トーマス・アンダーソン
撮影:マイケル・バウマン、ポール・トーマス・アンダーソン
音楽:ジョニー・グリーンウッド
製作:ポール・トーマス・アンダーソン、アダム・ソムナー、サラ・マーフィ
製作総指揮:ウィル・ワイスク
ベルリン、カンヌ、ベネチアの3大映画祭で受賞歴を誇るポール・トーマス・アンダーソンが「リコリス・ピザ」に続き、製作・脚本・監督・撮影兼任で描く異色のサスペンス・アクション。主演は「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン」のレオナルド・ディカプリオ。共演は「アスファルト・シティ」のショーン・ペン、「ザ・ザ・コルダのフェニキア計画」のべニチオ・デル・トロ、「サポート・ザ・ガールズ」のレジーナ・ホール、新進俳優チェイス・インフィニティなど。
(物語)かつては世間を騒がせた革命家だったが、今は平凡で冴えない日々を過ごすボブ・ファーガソン(レオナルド・ディカプリオ)。そんな彼の大切なひとり娘ウィラ(チェイス・インフィニティ)が、とある理由で無慈悲な軍人“ロックジョー”(ショーン・ペン)から命を狙われる事となった為、ボブはウィラの空手道場の“センセイ”(べニチオ・デル・トロ)の助けを借りて、次から次に迫る刺客たちとの戦いに身を投じる事となる。ロックジョーが異常な執着でボブ親子を狙う本当の目的とは何か?逃げる側と追う側、それぞれが三者三様に入り乱れる壮大なチェイス・バトルが幕を開ける事となる…。
ポール・トーマス・アンダーソン(以下P・T・Aと略)監督作は、2007年の「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」にとても感銘を受けて以来のお気に入り監督である。前作の「リコリス・ピザ」も良かった。
彼の作品は、たまに捻った難解な作品があったり、ロバート・アルトマン監督からの影響もあったりで、アンチ・ハリウッド的なアート作家と思っていたのだが、本作は事前情報ではガンクションあり、バイオレンスあり、カーアクションありと、(多分初めての)アクション・エンタティンメント作品らしい。全米興行も大ヒットと、P・T・Aらしくないないなあと観る前は思っていたのだが、観てみれば、やっぱりいつものP・T・A節炸裂の痛快作品だった。
(以下ネタバレあり)
主人公は過激派革命組織「フレンチ75」の活動メンバー、パット・カルフーン(レオナルド・ディカプリオ)。…とカッコ良さそうに見えるが実は恋人でチームのカリスマ・リーダー、ペルフィディア・ビバリーヒルズ(テヤナ・テイラー)に振り回されてる冴えない男。ペルフィディアは大胆な計画を建て、仲間たちと共に爆破テロを行い、カリフォルニアの拘置所から拘留された移民を脱獄させている。
ある収容所を襲った時、、ペルフィディアは捕まえた収容所の指揮官、ロックジョー(ショーン・ペン)に性的な屈辱を与え、挙句に肉体関係を結んでしまう。
チン〇コをズボンの下からおっ立てたまま歩かされるショーン・ペンの姿は爆笑ものだ。
やがてペルフィディアはパットとも愛をはぐくみ妊娠する。臨月のお腹を膨らませたまま自動小銃を乱射するペルフィディアの姿が勇ましいやらっ笑えるやら。そして娘のシャーリーンが生まれる。
とここまでは順風だったのだが、革命に情熱を燃やすペルフィディアは、仲間たちと銀行強盗を働き逮捕される。逮捕を指揮したのはペルフィディアに異常な執着を抱くロックジョーだった。
ここであれあれと思ったのは、ペルフィディアは司法取引を持ち掛けたロックジョーの軍門にあっさりと下り、仲間を売ってしまうのだ。これによって「フレンチ75」は壊滅する事となる。そして釈放されたペルフィディアはメキシコへ逃亡してしまう。
熱烈な革命家だと思っていたペルフィディアのこの変節ぶりには呆れる。“革命家と粋がっていても、所詮正体はこんなものだ”というP・T・Aらしい痛烈な皮肉が感じられる。
そして16年後、パット・カルフーンはボブ・ファーガソンと名前を変え、娘のシャーリーン改めウィラ(チェイス・インフィニティ)と共にカリフォルニアのメキシコ移民の多い架空のサンクチュアリ・シティ(聖域都市)、バクタンクロスで暮らしている。ウィラは聡明で、近所に道場を持つ空手インストラクターの“センセイ”(ベニチオ・デル・トロ)の元で空手を習い、めきめき上達して中級者レベルの腕前である。実はこのセンセイ、密かに移民救済活動も行っている。
それにひきかえ、ボブはでっぷりと腹が弛み、マリファナ漬けの自堕落な生活を送っている。元革命家の面影はどこにもない。そして時折映画「アルジェの戦い」(監督:ジッロ・ポンテコルヴォ)のビデオを観たりしている。1966年の、日本でも翌年度のキネマ旬報ベストワンを獲得した、アルジェリア独立戦争のレジスタンスの活躍と挫折を史実に基づき描いた名作である。
命を賭けて独立の為に戦った人々に比べて、ボブは何をやっているのか。これもまたP・T・Aらしい皮肉である。
そんな時、あの因縁のロックジョーが現れ、ウィラを拉致して行方をくらます。
実はロックジョーは、念願だった白人至上主義者の秘密結社「クリスマスの冒険クラブ」の入会が認められる直前なのだが、もしかしたらペルフィディアが産んだウィラは自分の子供ではないかと恐れている。しかもセックスの相手は黒人だ。身辺調査によってその事が明るみに出れば「クリスマスの冒険クラブ」への入会は当然アウトである。そこで強硬措置に出たというわけだ。
それにしても、革命組織の名前が「フレンチ75」だったり、白人至上主義者の結社の名前が「クリスマスの冒険クラブ」だったり、フザケまくってるのがまたP・T・Aらしい。右だろうと左だろうと、どっちもバカばっかりという事か。そう言えば ♪右を向いても左を見ても、バカとアホウの絡み合い♪ という歌が昔流行りましたな(古い(笑))。
最愛の娘を奪われて、ボブはようやく父親らしい行動に踏み切る。ウィラの行方を探す為に動き出すのだ。、“センセイ”に助けを求めたりもする。
やっとまともな父親になるかと思ったら、ここでもドジをする。かつての仲間「フレンチ75」の残党にウィラが保護されているとの情報を得て、そこに電話連絡をするのだが、相手は「(パスワードの)今何時だ?」と訊いて来る。16年前のパスワードなどすっかり忘れているボブが「そんなの覚えてねえ。頼むから教えろ」と言ってもバカの一つ覚えにパスワードを訊くので、しまいにボブがブチ切れるくだりが最高におかしい。
ここまででようやくP・T・Aの狙いが判って来る。一見サスペンス・アクションと思わせて、実は本作はナンセンス・ブラック・コメディなのだ。それも、ヘンな、おかしな人間たちの行動を通して、人間の自分勝手さ、愚かしさ、バカさを皮肉と哄笑で笑いのめし、そこから今のアメリカ社会全体を覆う分断、偏狭なナショナリズム、さらにはトランプ大統領が推し進める排他主義、白人優位主義までも痛烈に批判しているのである。
ラストのカーチェイス(と言えるかどうか?)もどこかヘンである。逃げるウィラを殺し屋が追うのだが、何百メートルか離れたまま、登り下りの起伏が激しい坂道をつかず離れず追っているだけだ。後でウィラの奇策の伏線だと分るのだが。これにもニンマリさせられた。
まあともかく、何度も笑わされた。こういうトボけた風刺コメディは大好きである。
昨年の「シビル・ウォー アメtリカ最後の日」とはまた別の角度、切り口で、今のアメリカの置かれた状況への批判を描いた、これは問題作である。これが全米興行収入でもヒットしており、評論家筋にも受けがいいのがまた面白い。
俳優では、ディカプリオがこれまでのイメージを覆す、情けないダメ親父ぶりを巧演しているし、変態ロックジョーを演じるショーン・ペンも、本当に変態かと思わせる強烈な怪演で、アカデミー助演男優賞は当確だろう。“センセイ”を楽しそうに演じるべニチオ・デル・トロもシブい好演だ。空手道場に何故か「スーパーマン」の日本版ポスターが貼ってあるのもおかしい。ペルフィディアを演じたレジーナ・ホールも強烈な印象を残す快演。役者がみんないい。
ポール・トーマス・アンダーソン監督としてもこれまでの最高作と言えるだろう。来年発表のアカデミー賞でどこまで受賞するか、今から楽しみである。 (採点=★★★★☆)
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コメント
デカプリオがダメ親父を楽しそうに演じるなど、楽しいシーンが多い映画でした。悪役?のロックジョーはどこか間が抜けていて笑わせてくれます。クリスマスの冒険クラブは不気味でしたが。
投稿: 自称歴史家 | 2025年11月10日 (月) 14:28
162分と長尺な筈ですが面白過ぎて
体感数十分でした。主になる人物の
個性とアクの強さにも良いアクセント。
予告を見る限りはアクションですが、
実際はブラックコメディ色も強いのも◎。
個人的には合言葉の所がお気に入りです。
私も父・娘1人なので親目線でウィラを応援。
蛇足ですがディカプは「センセイ」を
ネイティブに近づけて発音しますが、
他の方は難しいみたいですね。
改めて満足感かなり高い作品でした!
また妻の写真と映画の旅に出ます。
投稿: ぱたた | 2025年11月13日 (木) 11:08
◆自称歴史家さん
これは楽しんだもん勝ちですね。P・T・アンダーソン監督も楽しんで作ってる気がします。それが良かったのかも知れません。クリスマスの冒険クラブの不気味さは、トランプのアメリカが進む不気味さに通じているのでしょうね。
◆ぱたたさん
>個人的には合言葉の所がお気に入りです。
あのシーン、ボブの昔の仲間なんだから、「久しぶりだな、元気か?」くらいの会話があってしかるべきなのに、ボブを信じられずパスワードを尋ねるだけの相手も相当におかしい。
もしかしたら、何も信じられず、コミュニケーション不全になっている現代人への痛烈な皮肉なのかも知れませんね。笑えるけど奥が深い作品と言えるでしょう。
投稿: Kei(管理人 ) | 2025年11月14日 (金) 16:07