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2026年3月 4日 (水)

「木挽町のあだ討ち」

Kobikichounoadauchi 2026年・日本    120分
製作:東映=アミューズクリエイティブスタジオ
配給:東映
監督:源孝志
原作:永井紗耶子
脚本:源孝志
撮影:朝倉義人
音楽プロデューサー:津島玄一
音楽:阿部海太郎
企画プロデュース:須藤泰司、渡辺ミキ
プロデューサー:中澤元、堀口純平

第169回直木賞・第36回山本周五郎賞をダブル受賞した永井紗耶子の同名時代小説を映画化。脚本・監督は「東京タワー」の源孝志。出演は「きみの鳥はうたえる」の柄本佑、「国宝」の渡辺謙、「室町無頼」の長尾謙杜、同・北村一輝、「侍タイムスリッパー」の山口馬木也。その他瀬戸康史、滝藤賢一、高橋和也と芸達者な俳優が顔を揃えている。

(物語)文化七年(1810)の雪の降る夜、木挽町の芝居小屋「森田座」のすぐ近くで、美濃遠山藩士・伊納菊之助(長尾謙杜)が父の仇、作兵衛(北村一輝)を見事討ち取った。この事件は多くの人々に目撃され、「木挽町の仇討ち」として江戸の語り草となった。それから一年半後、同じ遠山藩士で、菊之助の縁者を名乗る加瀬総一郎(柄本佑)が「仇討ちの顛末を知りたい」と森田座を訪れる。総一郎にとってこの仇討ちは、腑に落ちぬ点がいくつかあり、それを解明したいのだという。菊之助に関わった人々から事件の経緯を聞くうち、徐々にある事実が明らかになって行く…。

原作は直木賞と山本周五郎賞をダブル受賞したベストセラーで、時代劇でありながら、週刊文春ミステリーベスト10・8位、このミステリーがすごい・6位、ミステリが読みたい!・4位と各ミステリーベストテンで軒並みランクインしている話題作である。

ミステリー大好き人間としては、これは面白そうだと図書館に予約を入れたが、予約が殺到していて順番待ち、まだ読むことが出来ないでいる。そうしているうちに映画化され、先月27日より劇場公開された。で、早速映画館に駆け付けたのだが…。

これは面白い!ちゃんと謎解きミステリーになっていて、江本佑扮する下級藩の侍が探偵役となって事件の真相に迫って行く。ネタバレになるのでここでは書けないが、とにかく原作がよく出来ている上に、監督・源孝志による映像的なアレンジも加えた脚本が見事。映画ファン、ミステリー・ファンにはお奨めの快作である。

(以下ネタバレあり)

冒頭、江戸・木挽町の森田座で上演されている歌舞伎「仮名手本忠臣蔵」が大入満員で千穐楽を迎えていた。その舞台がはねた直後、大勢の観客が森田座から出て行く中、無頼の男・作兵衛が前を行く艶やかな赤い打掛けを羽織った女に目を留め、後を付けて行く。森田座の裏の広場で、作兵衛が女の帯に手をかけ引っ張るや、着物の下から仇討の白装束に身を包んだ若い侍・伊納菊之助が現れ、父の仇討ち、勝負せよと闘いを挑む。

ここから、映画でもよくある仇討の決闘が始まるのだが、周りには森田座から出て来た200人余りの見物人がおり、また森田座の立作者、篠田金治(渡辺謙)が「ありったけの龕灯(がんどう)を焚いてやれ」と指示したおかげで、明るい照明の下での対決が始まる。菊之助も芝居まがいの大見えを切ったりするので、見物人ははまるで歌舞伎を見ているような雰囲気だ。

しかし決闘シーンはなかなか壮絶、血まみれになったり、作兵衛が菊之助をぶん回し炭焼小屋に投げ飛ばしたり。最後に菊之助が炭焼小屋から作兵衛の首を下げて現れ、仇討は成功する。
大勢の見物人の前で行われた仇討は、後に「木挽町の仇討」として江戸中に知れ渡る事となる。

前段とも言うべきこの仇討決闘シーンは、源監督のスピーディな演出もあってなかなか見応えあり。原作ファンも文章で読むよりずっと楽しめただろう。
…ただこの仇討シーン、私はやや違和感を感じた。実はそれが伏線になっているのだが、ネタバレになるのでこれについては後述する。


それから1年半後、菊之助の縁者で同じ遠山藩士の侍・加瀬総一郎が、仇討ちの顛末を知りたいと森田座を訪れる。
総一郎がまず会ったのが、芝居の客寄せ口上役の木戸芸者、一八(瀬戸康史)。総一郎は、この仇討ちには腑に落ちぬ点がいくつかあり、それを解明したいのだという。そして言葉巧みに一八から話を聞き出そうとする。

こうして物語は、総一郎が探偵役となって、事件の真相に迫って行く探偵ミステリーとして展開して行く事となる。

見た目は風采が上がらぬが、実は鋭い観察力を持つ総一郎は、まさに金田一耕助か刑事コロンボ。時代劇でありながらこうした趣向は珍しいし、面白い。

総一郎を演じる柄本佑がまさにはまり役、絶妙の巧演である。

(以下は完全ネタバレに付き、未見の方は映画を観た後にお読みください)

 

 

総一郎は、「菊之助は虫も殺せぬ優しい男だった。それが何故大男の作兵衛を倒す事が出来たのか腑に落ちぬ」と一八に語る。そんな総一郎の話術に乗せられて、一八は菊之助が仇討の半年前から森田座で働いていた事を話し出す。

以後は菊之助に剣術の指南をした森田座の立師・相良与三郎(滝藤賢一)、菊之助が仇討の時に着ていた赤い打掛けを用意した森田座の衣装方・芳澤ほたる(高橋和也)、小道具方の久蔵(正名僕蔵)へと聴き取りの範囲を広げ、最後に上方に出張していた、森田座を束ねる篠田金治に、作兵衛の遺骸はどう始末したのか、首は今どこにあるのかと問い詰め、仇討の真相を語るよう迫って行く。

この辺りから、カンのいい観客には、仇討の裏に隠された真相が見えて来る。そして私が感じた、以下に列記する違和感の正体も明らかになる。

・菊之助は、まだ十代の少年、対する作兵衛は大柄で力持ち。とても勝てそうに思えないのに、何故作兵衛を倒せたのか。
・菊之助の仇討の口上と動きが、何だか芝居じみている。歌舞伎の続きを見ているようだ。
・金治が「ありったけの龕灯を焚け」と言った後、多数の龕灯が出て来るのが早い気がした。手回しが良すぎる。
・二人が炭焼小屋に飛び込んだ後、しばらく間があってから菊之助が作兵衛の首を持って現れるが、誰も菊之助が作兵衛を倒す所を見ていない

ここまで来ればもうお解りだろう。すべては森田座の総帥で立作者の金治が仕掛けた、壮大な芝居だったのである。作兵衛の首も、小道具方の久蔵が数ヵ月かけて作った精巧なニセ首だった。
なにかあるなとは感じてはいたが、まさかそこまで手の込んだトリックが仕掛けられていたとは思いもよらなかった。やられた!


そもそも、本作のタイトルが「木挽町の討」ではなく、「木挽町のあだ討ち」と一部ひらがなだったのも作者の巧妙な仕掛けである。
金治が出して来た仇討の台本の表紙には「木挽町の討ち」と書かれていた。即ち徒(あだ)花の“徒”である。ニセ物という意味が込められている。

作兵衛による菊之助の父・清左衛門(山口馬木也)殺しも、実は藩の家老の滝川主馬(石橋蓮司)による大金横領の不正が絡んでおり、それを知った清左衛門が伊納家と菊之助を守る為、こちらも乱心の芝居を仕掛け、わざと作兵衛に斬られたのが真相だった。

そして終盤は、如何にしてこのニセ仇討が仕組まれて行ったのかをじっくりと描く。市井に身をやつしていた作兵衛を見つけ出してゴロツキに仕立て、台本通りに菊之助と作兵衛に芝居をさせて仇討で作兵衛が死んだように見せかける大芝居を打ったわけである。

回想で描かれるこの大芝居は、作兵衛のニセ首が手違いで「仮名手本忠臣蔵」の師直(吉良上野介)の首と入れ替わり、それを取り戻す為の一騒動があったり、ニセ首の鼻が欠けたりのドタバタがコミカルに描かれる。かと思うとその騒動でニセ首が炭焼小屋になかなか届かず、ハラハラさせたり。笑いとサスペンスが巧妙にブレンドされていて楽しい。

ニセ首の到着が遅れて、作兵衛が菊之助に「構わず俺を斬れ」と言い、それは出来ないと菊之助が泣くシーンも人情味があってホロリとさせる。

最後は、家老滝川の横領の証拠を総一郎が作兵衛から預かり国元へ帰り、悪は退治されてハッピーエンド。江戸参勤の遠山藩藩主が森田座に寄り、金治たち一同に礼を言うシーンはなくもがなとは思えるが、観客をホッコリさせるサービス精神と考えれば、まああってもいいかな。エンドロールでの、主要人物がニコッと笑うカーテンコールも楽しい。

気持ち良く、まんまと作者たちに騙された、時代劇版「スティング」とも言える、いわゆるコンゲームものの快作だった。またテーマ的には、仇討というくだらないしきたりに対する痛烈な皮肉も込められている。


家老の不正の証拠、もっと早く出しておけば清左衛門が死ぬ必要もなかったのではと思えたり、いくつか辻褄の合わない所もあるが、これだけ楽しませてもらったのだから、そこは大目に見ておこう。

源孝志監督は、これまであまり意識していなかったが、こんな力作を撮れるとは知らなかった。本作は原作の良さもあるので、次回作で真価が問われるだろう。

出演者、特にチーム森田座の5人は、それぞれキャラが立っていて好演。特にリーダーの渡辺謙はやはりうまい。全員助演賞を差し上げたいくらいだ。

原作を先に読んでいなくて正解だった。映画を観てから原作を手にして、結末を知っていても、随所に仕組まれた伏線を見つけたり、映画で端折られたエピソードを読むという楽しみもある。早く読みたい。

「国宝」とは違った意味で、歌舞伎を楽しめる映画でもある。幸いヒットしていて、観客の評判も良さそうだ。仕組まれたトリックを再確認する為リピーターも増えそうだし、興行の展開も楽しみだ。
本年を代表する、時代劇ミステリー・エンタティンメントの秀作としてお奨めである。 (採点=★★★★☆

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(さて、お楽しみはココからだ)

本作を観て、もう一つ似たようなコンゲーム作品を思い出した。

Big-deal-at-dodge-city1966年製作のアメリカ映画「テキサスの五人の仲間」(監督:フィルダー・クック)である。

舞台は西部、5人のギャンブラーが、ホテルで年に1度の恒例のポーカー・ゲームを楽しんでいる所に、旅をする夫婦が立ち寄り、ギャンブル狂いの夫が、止せばいいのに妻のいない間にゲームに深入りし、虎の子の全財産をスッてしまい、挙句に夫は心臓発作で倒れてしまう。残った妻は虎の子の金を取り戻す為に、一か八かの大勝負に出る、というストーリー。

妻の献身的な美談…と思わせて、実は本作に匹敵する大ドンデン返しが仕組まれた、コンゲームものの隠れた名作として知られる作品である。

本作の森田座チームも5人だが、この作品の騙しチームも5人である。こちらが時代劇ならあちらは西部劇と、いろんな点で共通性がある。

この作品もとても面白いので、コンゲーム物が好きな方にはお奨めである。ただDVDは絶版のようで高値が付いているので注意。

 

DVD[テキサスの五人の仲間」
Dvdbig-deal-at-dodge-city

 

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コメント

面白かったですね。役者陣の適材適所ぶりがこんなにハマっている映画もなかなかないのでは。「侍タイムスリッパー」「国宝」そしてりくりゅうペアのあの「絆物語」を見た後のこのタイミングでの公開、偶然だと思いますがぜひヒットしてほしい快作でした。

投稿: オサムシ | 2026年3月 5日 (木) 06:10

◆オサムシさん
うっかり書き漏らしましたが、作兵衛に扮した北村一輝さんの、前半と後半で全く違う巧みな演じ分けにも圧倒されましたね。
思えば、前半で描かれた物語の舞台裏を後半で種明かしする手法は「カメラを止めるな!」だし、巧妙なアイデア、作劇に笑い、泣かされる所は「侍タイムスリッパー」を思わせるし、最近のSNSと口コミで大ヒットになった作品群と共通する要素も多いから、この作品もロングヒットになる予感がしますね。

図書館の予約待ちきれないから、原作本つい買ってしまいましたよ(笑)。

投稿: Kei(管理人 ) | 2026年3月 7日 (土) 18:12

 原作は未読ですが、最後まで目が離せない展開で楽しめます。5人のチームをまとめる渡辺謙がさすがの貫禄です。最近の映画ではほとんど見られないカーテンコールがうれしいです。

投稿: 自称歴史家 | 2026年3月 8日 (日) 12:36

◆自称歴史家さん
原作本を買って読みましたが、面白くて一気に読みました。ページ数も350ページほどで、サクサク読めます。映画では語られなかった、森田座の5人の過去もそれぞれ1章を使って丁寧に書かれていて、映画で結末を知っていても読みごたえがあります。お奨めです。
残念な事に、興行成績は3週目で早くもベストテン圏外。口コミで来週くらい又戻って来たら嬉しいのですがね。とにかくヒットして欲しいです。


投稿: Kei(管理人 ) | 2026年3月18日 (水) 15:29

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