「マーティ・シュプリーム 世界をつかめ」
2025年・アメリカ 149分
製作:Central Pictures=A24
配給:ハピネットファントム・スタジオ
原題:Marty Supreme
監督:ジョシュ・サフディ
脚本:ロナルド・ブロンスタイン、ジョシュ・サフディ
撮影:ダリウス・コンジ
音楽:ダニエル・ロパティン
製作:イーライ・ブッシュ 、ロナルド・ブロンスタイン、ジョシュ・サフディ、アンソニー・カタガス、ティモシー・シャラメ
1950年代のニューヨークを舞台に、実在の卓球選手の人生に着想を得た波乱の人間ドラマ。監督は「グッド・タイム」のジョシュ・サフディ。主演は「名もなき者 A COMPLETE UNKNOWN」のティモシー・シャラメ。共演は「アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー」のグウィネス・パルトロウ、「アンティル・ドーン」のオデッサ・アザイオン、「ブラックアウト」等の映画監督アベル・フェラーラ、本職も卓球選手の川口功人など。第98回アカデミー賞では作品賞、監督賞、主演男優賞など主要部門を含む計9部門にノミネートされた。
(物語)1950年代のニューヨーク。親戚の靴屋で働きながら、世界一の卓球選手となる事を夢見るマーティ・マウザー(ティモシー・シャラメ)。ロンドンで行われた世界選手権で日本の選手エンドウ(川口功人)に敗れたマーティは、次回日本で行われる世界選手権への出場を目指す。ところが、不倫相手のレイチェル(オデッサ・アザイオン)の妊娠が発覚、卓球協会からは選手資格を剥奪されてしまう。資金は底をつき、あの手この手で遠征費用を集めようとするマーティだったが…。
またしばらく間が空いてしまったが、3月に入っても田舎の残務整理があってバタバタしてたら、3月下旬頃から風邪をひいてしまった。すぐ治るかと思っていたが、なかなか治らない。今も鼻水と咳でしんどい。トシのせいかな。無理してはいけない。
本作も鑑賞したのは3月17日なのに、書きかけたままで筆が進まず、やっと書きかけたら時間が経っていて記憶があいまい。そんなわけでちゃんとした文章になっていないかも知れないがご容赦のほど。
昨年、「名もなき者 A COMPLETE UNKNOWN」で素晴らしい演技力を見せたティモシー・シャラメ。ギターを猛特訓して本当に歌と演奏をやってのけ、ボブ・ディランになりきっていたのが凄い。これでアカデミー主演男優賞にノミネートされた。
で、本作も実在の人物を演じていて、しかも前作同様、猛特訓して卓球試合シーンに挑んでいる。そして前作に続き本作でもアカデミー主演男優賞にノミネートされた。大したものだ。
(以下ネタバレあり)
冒頭のアヴァンタイトル・シーンが面白い。シャラメ扮するマーティが勤める靴屋の倉庫で、彼が人妻のレイチェルとセックスするシーンがあるのだが、やがてメインタイトルのバックで精子の大群が泳ぎ、卵子に到達するまでが描かれ、やがて丸い卵子が“マーティ”と印字された卓球のボールにオーヴァーラップする。映像も凝っているが、このシーンでレイチェルが妊娠したであろう事を匂わせ、これがラストシーンの伏線になっているのも秀逸である。サフディ監督、なかなかやってくれる。
シャラメが演じる主人公マーティーマウザーの容貌は、両の眉毛が「こち亀」の主人公両津巡査のようにくっついていたり、度の入った眼鏡に口ヒゲと、美男を封印した胡散臭い顔立ちだ。
しかも性格的にダラシなくて、海外試合に出る為の渡航費を捻出する為に、大ボラを吹いて友人でも誰でも騙して金を巻き上げたり、夫のいるレイチェルとも寝たり(つまり不倫)、落ち目の映画スター、ケイ・ストーン(グウィネス・パルトロウ)を誘惑して金集めに利用したり。あげくに卓球の賭けゲームでも仲間とつるんで金を巻き上げたり…。
まあ一種の小悪党だ。人気上昇中の美男俳優としては、普通ならやりたくないと考えるだろう。ヘタすればファンが離れて行くかも知れない。
だがシャラメはこんなろくでなしの悪党役に敢然と挑戦、新境地を開いた。エラい!
観客は、最初のうちは反感を覚えるだろう。
だが、根っからの悪党ではない。ただ卓球試合で勝ち抜いて、チャンピオンになりたい、という夢を追っているだけだ。試合に出るには渡航費など金がかかる。その費用を工面するための金集めなのだ。決して最初から騙して金儲けしようとした訳ではない。渡航費を集める事に夢中になり過ぎて、周りが見えなくなってしまっただけなのだ。
私はこういう役柄の人物が好きだ。困った奴だけど、どこか憎めない(そう言えば「憎み切れないろくでなし」という歌があったね)。
日本映画で言うなら「男はつらいよ」の寅さんだ。後年には誰にも愛されるキャラクターになって行ったが、デビュー当時の数作ではかなり乱暴な性格でよく喧嘩し、周囲に迷惑をかけまくる。妹の縁談もぶっ壊す。商売のテキヤ稼業では、デパートが火事でとか口八丁の嘘八百を並べて安物の商品を売りつけていた。金額は知れてるけれど。いろんな点でマーティと似ていると言える(笑)。
だからマーティの場合も、その行動を見ているうちに、次第に憎めなくなってくる。特に卓球の試合では、巧みなラケット捌きで勝ち上がって行く。その試合シーンがテンポよくスピーディな演出で、いつの間にか応援したくなって来る。
その後マーティは、ロンドンで開催された世界選手権で日本の選手エンドウに敗れ、次回の日本で開催される世界選手権での雪辱を目指す。
そんな時、不倫相手のレイチェルが妊娠し、卓球協会からは選手資格を剥奪されてしまう。資金も底をつき、あらゆる手段で遠征費用を集めようとするがうまく行かない。
そこでマーティは、ケイ・ストーンの夫で富豪のロックウェル(ケビン・オレアリー)に頼み込み、日本でのエンドウとの試合でわざと負ける事(つまり八百長)を条件に渡航費を出して貰おうとする。まったく、金の為には何でもやる情けない男だ。
日本でのエンドウとの試合シーンは、実際に東京・上野恩賜公園の野外ステージで撮影されており、試合を見る群衆も日本人。服装や顔立ちもあの時代を思わせる。なので昔のアメリカ映画にあったようなヘンテコな日本描写はまったくない。これはいい事だ。
最初の試合では、予定通りにエンドウに負ける。だが負けたペナルティとして、豚の尻にキスをする事、と聞かされたマーティは怒る。そしてもう一度、今度は本当の真剣勝負でやりたいと申し出る。
ここから映画は怒涛の展開となる。このマーティとエンドウの試合シーンは本作最大の見せ場、思わず見入ってしまう。
エンドウ役の川口功人は東京2025デフリンピックの卓球日本代表に選ばれ、2年連続で銅メダルを獲得したほどの現役プレイヤーだ。
対するマーティ役のシャラメも、猛特訓を積んだおかげで、一部CGも使ってはいるが多くのシーンで、本当にエンドウと互角の勝負を行なっているように見える。この迫力ある試合シーンが見られるだけでも映画料金を払った値打ちはある。そしていつの間にか、手に汗握ってマーティを応援している自分に気付かされる。
壮絶な死闘の末、マーティは遂にエンドウに勝利する。このシーン、感動で思わず涙が溢れそうになった。
その後マーティはアメリカに帰り、出産で入院しているレイチェルを見舞う。産児室で自分の息子と対面したマーティは思わず涙ぐむ。このシーンでもホロッとさせられた。冒頭のCGシーンで、この乳児は間違いなくマーティの子供だと知らされている事がここで生きて来る。うまい演出だ。
マーティのモデルとなったのは、実在の卓球選手マーティ・リーズマン。調べると、この人もとんでもない男だった。卓球の腕は凄いのだが、詐欺まがいの事もやったり、海外での試合の際には密輸もやって金儲けしたり、試合中にも相手の癖をあざけったり、プライベートな話題をズケズケ言って相手の平常心をかき乱したりとか。なんともエゲツない。まだ本作のマーティ・マウザーの方が可愛げがある。
サフディ監督はそんなリーズマンに関するエピソードを参考に自由に脚色し、破天荒で型破りだけれど、卓球に寄せる情熱は誰よりも強く、滅茶苦茶な事もやったり、人を裏切ったり、失敗もしたり…そんな経験を重ねながら、エンドウとの試合を通して,”戦うとは、人を愛するとは何なのか”という大きなテーマに気付き、成長して行く、一人の男の優れた人間ドラマになっているのだ。私はその事にとても感動した。
ティモシー・シャラメ、本作でまた俳優として一段と成長した。アカデミー賞ではまたも受賞は逃したが、いずれ間違いなく受賞するだろう。次回作ではどんな役柄を演じるか、興味は尽きない。
(採点=★★★★★)
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