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2026年5月25日 (月)

「ひつじ探偵団」

The-sheep-detectives 2026年・アメリカ=イギリス合作  109分
製作:Working Title=Lord Miller
提供:M.G.M=アマゾン・スタジオ
配給:ソニー・ピクチャーズ・エンタテインメント
原題:The Sheep Detectives
監督:カイル・バルダ
原作:レオニー・スヴァン
原案・脚本:クレイグ・メイジン
撮影:ジョージ・スティール 
音楽:クリストフ・ベック 
製作総指揮:サラ=ジェーン・ライト、アメリア・グレンジャー、アディッティア・スード、タイソン・ヘッセ、フィル・ロード、クリストファー・ミラー、ティム・ウェルスプリング

ドイツの作家レオニー・スヴァンの同名ベストセラー小説を映画化。大好きな飼い主を殺された羊たちがその犯人を見つけ出すべく奮闘する謎解きミステリー。監督は「ミニオンズ」シリーズのカイル・バルダ。主演は「ウルヴァリン」シリーズのヒュー・ジャックマン。共演は「クルエラ」のエマ・トンプソン、「zola ゾラ」のニコラス・ブラウン、「マスターズ・オブ・ユニバース」のニコラス・ガリツィン、「シアター・キャンプ」のモリー・ゴードンなど。

(物語)イギリスののどかな田舎町。羊飼いのジョージ(ヒュー・ジャックマン)は、愛する羊たちに囲まれながら一人で暮らしていた。毎晩、ジョージはたくさんの羊たちに、ミステリー小説を読み聞かせていた。もちろん、彼らが物語を理解し、その時間を楽しみにしているとは知らずに。ある日、ジョージが死体で発見される。警察は事故で処理しようとするが、羊たちは納得せず、最も賢いリーダーのリリー(声:ジュリア・ルイス=ドレイファス)を中心に、真犯人捜しの調査を開始する。果たしてその犯人は?…。

羊飼いの男と、彼に飼われているやんちゃな羊たちが主人公、と聞くと、あのアードマン・プロの人気アニメ「ひつじのショーン」シリーズを連想する。てっきりアニメかと思ったら、CGによる実写だと言う。他愛ないコメディかと思ったら、題名通り羊たちが探偵団となって飼い主殺しの犯人を捜すミステリー??しかも製作総指揮に、大ヒットしている「プロジェクト・ヘイル・メアリー」を監督したフィル・ロードとクリストファー・ミラーが加わっているというので、興味が沸いて劇場で観る事に。


いやーこれは、予想を裏切って面白い!笑えるシーンもあるが、お話は本格的な探偵ミステリーである。ヒントや伏線も随所に仕掛けられているので、最後まで目を離さないように。

(以下ネタバレあり)

冒頭のお馴染みM.G.Mロゴに登場するライオンが、「メェ~~」と鳴いてまず笑わせる。

主人公の羊飼い・ジョージを演じるのがヒュー・ジャックマンというのも、意表を突いたキャスティングである。しかもそのジャックマンが、序盤であっさり死んでしまうのだ。「サイコ」のジャネット・リーを思い出す。

ジョージは羊たちをこよなく愛しており、またミステリー小説が大好きで、毎日夕方、羊たちにミステリー小説を読んで聞かせる。羊たちも興味深く聞き入っている。そしていよいよ犯人の正体が判明する手前で、「この続きはまた明日」と終わってしまう。
実は羊たちは人間たちの言葉を理解していて、しかもミステリーが大好き。ジョージがトレーラーに引っ込むと「いい所なのに」、「続きを聞かせろ」と不満をぶつけ会話している。勿論羊たち同士の言葉なのだが、それを英語で喋っている、という辺りも、アニメーションっぽい所である。聞いているうちに慣れて来るが。

羊たちには全員ジョージが名前をつけている。そしてそれぞれ、キャラが立っている。リーダー格のリリーは聡明で、ミステリー小説の犯人も見事言い当てたりする。記憶力のいいモップルはリリーの相棒として一緒に行動する。全身黒毛のセバスチャン(声:ブライアン・クランストン)はやや孤高の存在だが、肝心な時にはとても頼りになる。その他いつも角突き合って暴れるのが好きなロニーとレジーとか、冬生れという事で仲間外れにされているチビちゃんとか。そういった羊たちの性格や個性を脇に至るまできちんと描き分けているのが素晴らしい。

羊たちは、嫌な事を忘れる特技があるようだ。中でも“死”は一番忘れたい事。だから仲間内には「羊は歳を取ると空に上がって雲になる」との言い伝えがある。これがラストで生きて来る。

ジョージの遺体が発見され、村で唯一の警察官、ティム・デリー巡査(ニコラス・ブラウン)が捜査に当たるが、何とも頼りなさそう。ジョージの死の原因をちゃんと調べようとしない。だが羊たちは、誰かがジョージを殺したのだと考え、ジョージの残したミステリー小説を参考に、わずかの手掛かりを元に事件の真相を究明しようとする。まさに“羊探偵団”である。

村の人間たちの中には、怪しい人物が数人いる。事件当日、ジョージと何か揉めていた羊飼いのケイレブ、その彼とつるんでいると思われる肉屋のハム、村の商店主でジョージに片思いのベス(ホン・チャウ)等々。
その他では、村で開催されているフェスティバルの取材にやって来た新米記者のエリオット・マシューズ(ニコラス・ガリツィン)や、ジョージの遺言を管理する弁護士のリディア・ハーボトル(エマ・トンプソン)など、多彩な人物が登場する。

そしてもう1人、ジョージの娘レベッカ・ハムステッド(モリー・ゴードン)が、父が死んだとは知らずこの村にやって来た。
リディアによると、ジョージには羊の病気の特効薬を開発し、その権利を譲渡した事による、3,000万ドルの遺産があり、最新の遺言状ではその遺産の大半を娘レベッカに与える事になっていた。だがレベッカは、前日にジョージと会っていた事を隠していたり、いくつかの嘘が発覚して、デリー巡査も、羊たちまでが彼女を疑う。そしていくつかの証拠が出て来た事でレベッカは窮地に追いやられるが…。

怪しい人物に疑いがかかり逮捕されたり、些細な手掛かりから別の真犯人が浮上する、という流れもまさにミステリーの基本に忠実。ネタバレになるから書かないけど、あの真犯人はまったく予想がつかなかった。うーんやられた。

それにしても最初は頼りなさげなデリー巡査が、羊たちにいろいろ助けられたとは言え、最後は別人のような見事な名探偵ぶりを発揮するとはね。まあリリーたちが差し入れたミステリー入門の本を読んで勉強したおかげ、という事にしておこう。

最後がとても感動的。セバスチャンはリリーたちをケイレブ牧場の猛犬から助けて死んでしまうのだが、事件が解決した後、リリーが空を見上げると、セバスチャンとそっくりな雲が空に浮かんでいるシーンにはジーンとさせられたし、ジョージの牧場を継ぐ事を決意したレベッカが、父と同じように羊たちに本を読んで聞かせてあげるシーンもいい。そして事件解決に大活躍した冬生まれのチビちゃんに、レベッカがある名前を付けてあげるシーンには泣けた。


羊たちが騒動を繰り広げるコメディ、と思い込んでナメてかからないように。これは本格推理ミステリーとしても、実によく出来た作品である。

それだけでなく、羊社会にもある差別の問題とか、リリーたちが閉鎖的な社会の暮らしに慣れて出て行く勇気を持てなかったり、羊も実は食用にされる運命にある、という現実が羊たちにも、我々観客にもショックだったりとか、考えさせられる社会的テーマも内包している点にも注目すべきである。

「羊たちは沈黙しない」というフレーズが出て来る予告編にも笑わせられる。

とにかく面白い。意外な拾い物、と行っては失礼だが、笑いあり涙あり、謎解きありの、ウエルメイドなお奨めの快作である。 
(採点=★★★★☆

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