「Michael/マイケル」
2025年・アメリカ 127分
製作:G.K.Films=ライオンズゲート
配給:キノフィルムズ
原題:Michael
監督:アントワン・フークア
脚本:ジョン・ローガン
撮影:ディオン・ビーブ
音楽監修:ジョン・ウォーハースト
製作:グレアム・キング、ジョン・ブランカ、ジョン・マクレイン
“キング・オブ・ポップ”と称されたマイケル・ジャクソンの半生を描いた伝記映画。監督は「イコライザー」シリーズのアントワーン・フークア。主演はマイケルの甥ジャファー・ジャクソン。共演は「シンシン/SING SING」のコールマン・ドミンゴ、「search #サーチ2」のニア・ロング、「トップガン マーヴェリック」のマイルズ・テラーなど。
(物語)ジャクソン家の5男として生れたマイケル(幼少期=ジュリアーノ・クルー・バルディ)は幼い頃から兄弟と共に、製鉄所で働く野心家の父・ジョセフ(コールマン・ドミンゴ)の厳しい指導の元、歌のレッスンを続けさせられていた。やがて兄弟5人は音楽グループ“ジャクソン5”としてデビューする。評判は広まり、ステージからステージへと人気は急上昇。中でもマイケルの歌唱力は素晴らしく、、誰もがマイケルの圧倒的な歌声に酔いしれた。やがて青年に成長したマイケル(ジャファー・ジャクソン)に、運命の出会いが訪れる。音楽史にその名を刻む名プロデューサー、クインシー・ジョーンズだ。この出会いを機に、グループの枠を超え、マイケルはソロアーティストとして前人未踏の音楽的創造性を爆発させ、全世界の寵児となって行く。だがその栄光の裏には、早熟の天才ゆえの孤独感、強権的な父親の呪縛、家族への愛と自分の中に溢れるビジョンとの間で葛藤する一人の人間の姿があった…。
マイケル・ジャクソンは私も大好きで、CDも買ったし、長時間ミュージック・ビデオ「スリラー」が出た時にはメイキングをカップリングしたカセット・ビデオも入手したほどだ。どの曲も素晴らしかったが、「ビリー・ジーン」はじめミュージック・ビデオの革新性にも心奪われた。
というわけで、本作の公開を楽しみにしていた。製作がクイーンのフレディ・マーキュリーの伝記ドラマ「ボヘミアン・ラプソディ」を製作したグレアム・キング率いるG.K.Filmsである点でも期待したくなる。
(以下ネタバレあり)
冒頭、ステージに向かう1人の男(無論マイケル)の後ろ姿から始まり、そこからデビュー前の過去に遡るという構成は「ボヘミアン・ラプソディ」と同じ手法だ。
本作で判ったのは、父親のジョセフが“人生は勝つか負けるかだ”と公言し、子供たちにかなり厳しい音楽指導をしていたという点。マイケルがあまりの厳しさに音を上げそうになると、鞭で尻を何回も叩くシーンがある。
日本でも昔はスパルタ教育という言葉があり、親父が子供を暴力も使い厳しく躾けるのは当たり前の空気が長くあった(A前巨人監督もそんな親父だったわけだ(笑))。
そんなマイケルに優しい愛情を注ぐ母キャサリン(ニア・ロング)の存在が心に残る。
やがてマイケルを含むジャクソン家の5人兄弟は、“ジャクソン5(ファイヴ)”としてステージに立ち、徐々に人気を得て行く。中でもリード・ボーカルを担当する最年少のマイケルの圧倒的な歌声に聴衆は熱狂した。評判は広まり、多くのアーチストを抱えるモータウン・レコードと契約し、ジャクソン5はスターダムを駆け上がって行く。
マイケルの子供時代を演じたジュリアーノ・クルー・バルディが、声質や歌い方まで幼少期のマイケルとそっくりで感心した。
面白いのは、母キャサリンがマイケルと二人で、テレビで古い映画を観るシーンが何度か登場する所。ジーン・ケリー主演のMGMミュージカル「雨に唄えば」だったり、ドタバタ・コメディ「三ばか大将」だったり。後年には二人でチャップリンの「モダン・タイムス」を観るシーンもある。おそらく、ジーン・ケリーの優雅で軽やかなダンス・ステップや、三ばか大将やチャップリンの身体を張った熱演が後のマイケルのアクロバティックな歌唱パフォーマンスに生かされているのではと想像する。
成人したマイケルを演じたジャファー・ジャクソンが、最初はあまり似てないなと思えたが、物語が進むに連れ、段々とマイケル本人とそっくりになって行くのにも驚く。マイケルの甥だそうで、なるほど血筋だなと感心した。
「ビリー・ジーン」をステージで歌うシーンでは、特にあのムーン・ウォークを初めて見せるシーンで、マイケルが憑依したかのような見事ななり切りぶりに私は感激のあまり涙が出てしまった。まさにマイケル本人がそこにいた。このシーンだけでも料金分の値打ちはある。出来るだけ大きなスクリーン、音響のいい劇場で観て欲しい。
「ビート・イット」や「スリラー」のミュージック・ビデオを撮影するメイキング・シーンも見ものだ。「スリラー」のリハーサルでマイケルが、「フレッド・アステアは足元まで見せていたので、カメラ位置を下げて全身を見せて欲しい」とスタッフに依頼するシーンがある。MGMミュージカル映画を母と観た経験がここで生きて来たわけだ。
「スリラー」を作る前に、これもマイケルが家でホラー怪奇映画「蠅男の恐怖」、「肉の蝋人形」等をテレビで観るシーンがある。マイケルがジョン・ランディス監督の怪奇映画「狼男アメリカン」を観て触発され、同作のランディス監督と、特殊メイクを担当したリック・ベイカーを「スリラー」の監督、メイクアップ・アーチストとしてオファーしたのは有名な話。
マイケルはこんな具合に、数多くの映画を観て、それをミュージック・ビデオにうまく採り入れたり参考にしているのだろう。そんな貪欲なまでの研究心が音楽のヒットにも繋がっていると見る。
「ビート・イット」のガレージ内でのナイフを握っての決闘シーンも、「ウエスト・サイド物語」の同シーンを思わせて楽しい。
その他の、いくつかのエピソードも興味深い。ミュージック・ビデオを流すMTVが、それまでは白人ミュージシャンしか受け入れて来なかったのを知ったマイケル側が、CBSレコードの社長に直談判し、社長が半ば恐喝まがいに「ビリー・ジーン」のビデオをMTVで放映させるエピソードが笑える。「ビリー・ジーン」はMTVが放映した最初の黒人ミュージシャン作品となった。
後半にはマイケルと父ジョセフとの確執も描かれる。マイケルが成人し独立した後も彼を束縛しようとしたり、マイケル人気でジャクソン5を盛り上げようと画策する話も描かれる。
確かにマイケルの成功は、彼の幼い頃に父によってシゴかれ鍛えられたおかげである事は認めるが、この頃になるとジョセフはただ我欲を満たそうと焦っているようにしか見えない。
そんなマイケルを援助し力になる弁護士ジョン・ブランカ(マイルズ・テラー)の存在も大きい。彼がFAX1枚でジョセフをマネージャーから解雇する辺りもスカッとする。
ラストは冒頭シーンに戻り、1987年秋の「バッド・ワールド・ツアー」の大成功シーンで締めくくられる構成も「ボヘミアン・ラプソディ」と同じだ。
楽しかった。感動した。さすがはグレアム・キング、カリスマ・スーパースターの伝記映画を作るコツをわきまえている。
彼を支えてくれた母の存在、母のおかげで多くの映画からアイデアを得た事、白人ミュージシャンのみだったMTVに黒人アーティスト参入の道を拓いた事…これまで知らなかった彼の偉大な足跡をきちんと映画にしてくれた事も感謝したい。難病で入院中の子供たちを慰問し励ますシーンにもジンと来た。本当に素晴らしい天才ミュージシャンだった
一部で、マイケルの負の部分が描かれていないとか、周辺の人物の描き方が浅いとかの批判があるが、我々ファンはマイケルがどのようにしてスーパースターとなったのか、歌うシーンはどこまで満足させてくれるのか、その点さえきちんと描けていれば充分だ。そしてそれは見事な出来だった。それでいい。彼のダークサイドなぞ見たくはない。
何より映画は娯楽だ、楽しめてナンボだ。ここまで楽しませてくれ、感動を与えてくれた、その点を高く評価したい。
映画は30歳くらいまでの時点で終わっているので、続編の話もあるようだが、個人的には「バッド」がマイケルのピークだと思ってるし、その後の整形を繰り返したり、児童性虐待で逮捕されたりのネガティヴな話なんて観たくもない。出来れば止めて欲しいし、公開されても多分観ないだろう。
ともあれ、もうこんな天才的スーパースターは現れないかも知れない。マイケル・ジャクソンのファンは無論の事、彼を知らない若い人にも、こんな天才がいた事を知って貰う為にも必見の伝記映画と言っておこう。 (採点=★★★★☆)
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コメント
ブーム、いや伝説をリアルタイムで生きてた世代だからでしょうか、映画の出来は平凡でも、スリラーの誕生あたりからワクワクして最後は泣いて思わず拍手してました。オープニングだけでなく、ラストのコンサートの入りの、客席からドローンでなめる演出も ボヘラブにそっくりでしたね。一つ、権利の関係でしょうか、歌詞字幕がなかったのは残念でした、ボヘラブにはあったのに。この点の批判のコメントを全く見ないのは、やはり皆マイケルの、歌だけでなくパフォーマンス全体を伝説として見てるからですね。
投稿: オサムシ | 2026年6月21日 (日) 18:46
妻も好きだったマイケルを娘に継承したく
仙台・新利府でDolby Atmosの最上級音響
上映館でアップグレード席(通常より広く
半個室席でミニ机に妻の写真を置けた上
またアルコールか高級ドリンク付!)で
鑑賞しました。私音楽映画って涙腺緩くて
ジャクソン5でもう感涙。彼の純粋さと
音楽への才能が輝き、ヒール的な父親と
確執の違いが際立ち見応えありました。
あとはライブをただ堪能、歓喜です!
娘も笑顔で大満足な親子鑑賞でした!
投稿: ぱたた | 2026年6月22日 (月) 17:16
◆オサムシさん
やはりリアルタイムで見ていた世代にとっては、たまりませんね。ここまで再現してくれたら言う事なしです。
歌詞字幕がなかったとの事ですが、個人的にはジャファー・ジャクソンが完璧に演じたマイケルのダンスをじっくり眺める事に集中したかったので、ない方が正解かと思います。
◆ぱたたさん
親子で鑑賞ですか。うらやましい。マイケルの凄さをじっくり教えてあげてくださいね。
私も音楽伝記映画では涙腺がいつも緩みっぱなしです。本作もそうですが、「ボヘ・ラプ」でも泣いてしまいましたよ。
投稿: Kei(管理人 ) | 2026年6月23日 (火) 12:35
私も本作予告編を見てから楽しみにしていました。今の所、今年の洋画ベストワンかな。
とにかくマイケルを演じるジャファー・ジャクソンが素晴らしい。
マイケルの兄(ジャーメイン・ジャクソン)の息子なので顔やスタイルが似ているのは当然ですが、ダンス・パフォーマンスなど素晴らしい。
映画は最初からジャクソン5を再現し引き込まれます。名曲「ABC」には思わず涙。
その後の「ビート・イット」「スリラー」のミュージックビデオのメイキングも素晴らしい。
特に「スリラー」は大好きだったのでまた思わず涙。監督のジョン・ランディスも登場するのがうれしい。
マイケルが好きでもそうでなくても音楽好きにはお勧めです。
投稿: きさ | 2026年6月23日 (火) 23:16
◆きささん
「ボヘ・ラプ」といい「エルヴィス」といい、天才的ミュージシャンの伝記映画にハズレはないですね。音楽映画としても本年1番の出来だと思います。
「スリラー」メイキング・シーンは私も泣けました。本作を観て、また「スリラー」ビデオ引っ張り出して観ました。何度見ても面白いですね。ナレーションと最後の笑い声を怪奇俳優ヴィンセント・プライスが担当してますが、本作で引用されてた「蠅男の恐怖」「肉の蝋人形」、どちらにもヴィンセント・プライスが出演してたのですね。なるほどと思いました。
投稿: Kei(管理人 ) | 2026年6月30日 (火) 15:21