「シラート」
2025年・スペイン=フランス合作 115分
配給:トランスフォーマー
原題:Sirāt
監督:オリベル・ラシェ
脚本:オリベル・ラシェ、サンティアゴ・フィロル
撮影:マウロ・エルセ
音楽:カンディング・レイ
製作:ドミンゴ・コラル、ペドロ・アルモドバル
製作総指揮:エステル・ガルシア
失踪した娘を捜す父と息子の旅が、予期せぬ事態を招く事となる異色のロードムービー。監督は「ファイアー・ウィル・カム」のオリベル・ラシェ。主演は「パンズ・ラビリンス」のセルジ・ロペス、その他の出演者は俳優ではなく、ラシェ監督が舞台となる現地で見つけた人たちから選ばれている。2025年・第78回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品され、審査員賞など4冠を受賞。第98回アカデミー賞では国際長編映画賞と音響賞にノミネートされた。
(物語)砂漠で開催される音楽イベントのレイブパーティに参加した娘が行方不明となった。彼女を探す父ルイス(セルジ・ロペス)と息子エステバン(ブルーノ・ヌニェス・アルホナ)は、モロッコの山岳地帯から砂漠の奥深くへと車を走らせ、現実と幻覚が混濁するような野外レイブに行き着くが、そこにはすでに娘の姿はなかった。二人はレイブの参加者グループを追い、娘が向かったと思われる次のレイブ会場を目指すが、その先には道なき荒野が待ち構えていた…。
製作にスペイン映画の巨匠ペドロ・アルモドバルの名前があるし、評判がいいので、どんな映画かも知らず予備知識なしで観たのだが…。
なんともまあ、怖い映画だった。最後までハラハラドキドキだった。
(以下ネタバレあり)
冒頭から、巨大スピーカーによる重低音の音が鳴り響く。これはモロッコの砂漠で行なわれる、レイブという大人数が集まる音楽イベントなのだそうだ。
音楽と言っても、メロディのない単調な音が繰り返されるだけなので、聞いてると退屈になって来る。だが参加者たちは熱に浮かされたように踊り狂っている。
そんな光景が延々と続くうち、どこか場違いな中年男と子供の親子連れと思われる二人が現れ、場内を動き回り、ビラを配っている。
男はルイス、子供はエステバンという名で、実は娘のマールがレイブパーティに出かけたまま行方が分からなくなったので、もしやこのレイブパーティに参加しているのはと探しに来たわけである。エステバンは愛犬を連れている。
結局娘は見つからず、そのうちある参加者グループから、砂漠の向こうにもう一つのレイブイベントがあるとの情報を得る。
そんな所に軍隊が現れ、レイブパーティは突然打ち切られ、解散を命じられる。参加者は散り散りになるが、先程別会場の情報を教えてくれたグループが、制止を振り切り車で走り出したので、ルイスたちも車でその後を追った。
こうして、大型四駆トラックに巨大スピーカを積んで次のレイブ会場へと向かうステフ、ジョシュ、ジャド、トナン、ビキたち一行と、ルイス親子(と一匹)の奇妙な旅が続く事となる。
ステフたちは軍隊の目を逃れる為、幹線道路を避けて危険な山岳地帯を進む。後をついて来るルイスには、この先の道は危ないのでミニバンでは無理だと忠告するが、娘を探したい一心のルイスはそれでも彼らの後を追って走り続ける。
不思議なのは、ラジオでは第三次世界大戦が勃発したとの情報が流れている事。現代ではなく近未来が舞台なのか。しかし特に戦争を思わせる描写はない。
ステフは片足が義足で、ビキは片手が無い。これも謎だ。もしかしたら戦場で負傷した元兵士なのか。
さまざまな謎が登場するが、それらは結局最後まで解明されないままだ。なんとも奇妙な映画である。
河に到着したステフたちのトラックは四駆を生かして渡河するが、ルイスのミニバンでは無理なので、ロープを結んで引っ張ってあげる。なかなか親切な彼らだ。
一行は険しい山道を進むが、そこで悲劇が起きる。ルイスが車を降りている時、エステバンの乗ったミニバンが坂道で動き出し、崖から転落してしまう。何の予兆もなく突然訪れる悲劇。
ルイスは息子を探しに行こうとするが、険しい崖の下にはとても降りられない。泣く泣く生死不明のエステバンを残したまま、ルイスはトラックに乗せてもらい、先を進む事となる。
一行は平坦な砂漠地帯にやって来る。ここで一行はスピーカーを降ろし、仲間だけのレイブパーティを始めるが、機嫌よく踊っていたジャドが突然地雷を踏んで爆死する。
救いに行こうとしたトナンもやはり地雷を踏み死んでしまう。ここは地雷原だったのだ。
これらの描写は予兆なく、呑気に踊っていた二人に突如降りかかる悲劇。一行のみならず、観ている我々観客にとってもショックだ。
まだ地雷が多く埋まっているかも知れない。一行は進退極まる。さて、どうやってここから脱出するのか。まるで映画「恐怖の報酬」を思わせる緊迫感。いやあ怖い。
ここから先は書かないが、この作品は映画を観ていると言うよりも、観客自身が体感する映画である。巨大スピーカーから流れる、身体に響く重低音も相乗効果となる。なので、出来るだけ音響効果のいい劇場で観る事をお薦めする。
今まで観た事もない映画体験だった。いくつかの謎は解明されないままだが、それでいいと思う。個人的には、今の時代に本当に起こっている、理不尽な戦争のメタファーではないかと思う。
戦争にしても、地震などの災害にしても、それは予告なく訪れ、逃げ場を失い、多くの命が失われる。不条理そのものだが、それでも人間は生きて行かなくてはならない。この映画は、そんな時代を生きる我々に向けたメッセージなのだろう。
カンヌ国際映画祭で審査員賞などを受賞し、アカデミー賞で国際長編映画賞と音響賞にノミネートされたのも納得である。本年を代表する秀作である。 (採点=★★★★☆)
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