B級娯楽映画 第144位 「クレージーだよ 奇想天外」
意外と思われるでしょうが、私は当時人気絶頂だった植木等を中心とした東宝クレージー・キャッツ主演シリーズのファンで、毎回封切られる度に映画館で観ていました。
本作の併映は加山雄三主演の「アルプスの若大将」。実は「若大将」シリーズの前作「エレキの若大将」がとても面白かったので、以後このシリーズも欠かさず観るようになりました。
その2大シリーズが同時上映で公開されたとなれば、これは見逃す訳に行きません。
また当時は「君といつまでも」(「エレキの若大将」の主題歌)の爆発的大ヒットで加山雄三ブームが起きていた時ですから、この2本立ては大ヒット、その年の興行成績ではこの2本が4位、6位に食い込んでいます。
で、この作品を何故ベスト150に入れたかと言うと、実は笑えるコメディでありながら、当時の世界情勢、政治状況を痛烈に皮肉った異色作だったからです。
冒頭いきなり、原水爆実験の記録映像が流れます。クレージー映画を観に来た観客は、劇場間違えたかと思ったでしょう(笑)。
そして舞台は地球から遠く離れたα星。呑気に釣りをしていたα星人、ミステイク・セブン(谷啓)のすぐそばにロケットが墜落して大騒動。これ実は、地球から飛んで来たものでした。

α星は、地球の原水爆実験やロケット打上げ等の影響で被害甚大。宇宙の平和も脅かされているという事で、α星の長官(植木等・右)はミステイク・セブン(以下M7)に、「これより直ちに地球に赴き、戦争ごっこなど止めさせて来い」と秘密任務を与えるのです。監視役として、零八(ゼロハチ・藤田まこと)も同行します。
谷啓の役名からして、これは007シリーズのパロディになってます。長官はさしずめ007の“M”ですね。M7はボンドとは違って内気でカッコよくはないですが。
M7の行き先は日本です。日本には戦争放棄を謳った憲法があるので、戦争をする他国に「戦争を止めよ」と言えるのではないかと思ったからでしょう。
到着早々、M7は大聖化学の新入社員の鈴木太郎(桜井センリ)の体に乗り移りますが、地球の生活や暮らしぶりを何も知らず、戸惑い、失敗を繰り返しながらも、地球の平和を守ろうと奮闘します。
ただちょっと変なのは、M7は鈴木太郎の体を借りているだけなので、外観は桜井センリのままでなければいけないはずですが、ずっと谷啓が鈴木役を演じます。まあこれは谷啓が主役なので仕方ないでしょう。
M7は何とか大聖化学の社員鈴木になりすましますが、α星には女性がいないので女の事は何も知らず、会長秘書の城山和子(星由里子)や同僚の恋人・ゆかり(野川由美子)の姿を見てドギマギするのが笑えます。会社で何度か顔を合わせるうちに、M7は和子の事を好きになって行きます。星由里子(右)が可愛い。併映の「アルプスの若大将」にも出演しています。
M7と零八は超能力を与えられているのですが、パチンコの玉を出し放題にしたり、いろいろ超能力を無駄に乱用します。
大聖化学は軍需産業で、いろんな兵器を作り自衛隊に納めています。それを疑問に思ったM7は社長(ハナ肇)に「憲法で戦争を放棄しているはずなのに戦争兵器を作っているのはおかしいじゃないですか」と疑問をぶつけるも、一蹴されます。それでもめげないM7は、自衛隊に納品する大砲の弾を超能力で花火に変えてしまいます。山下清の名言「みんなが爆弾なんかつくらないで きれいな花火ばかりつくっていたら きっと戦争なんか起きなかったんだな」を思い出させますね。
実は大聖化学はベトナム戦争用にも兵器を作っていたので、それも花火になって大騒ぎ、M7の鈴木は会社をクビになってしまします。
クビになったM7は、ロック歌手ジミー健(内田裕也)の付き人になりますが、うっかり下剤をジミーに渡してしまい、それでジミーは舞台上でお尻を押さえて七転八倒、とうとうトイレに駆け込んで演奏は中断、M7が代わりに舞台に立って即興で歌うとこれが大うけ、たちまちM7は人気歌手になる、というてん末にも大笑い。
内田裕也が若いです(右)。寺内タケシとブルー・ジーンズをバックにロックを歌うシーンも決まってます。お尻を押さえながら必死に歌おうとする演技は爆笑ものです。
売れっ子歌手になったM7は、大聖コンツェルンの会長(新藤英太郎)の後押しで国会議員選挙に出て見事当選、とうとう国会議員にまで上り詰めるという、あれよあれよの出世ぶりにも笑えます。
国会では「平和法案」という名の法案が審議中。長々と読み上げられる法案に、居眠りする議員もいます。M7もさっさと採決してはと催促する始末。
ところがそこに、どこから入って来たのか謎の男(これが植木等の二役)が議場に現れ、実はこの法案は大聖の会長が画策した、核爆弾の開発を含む戦争法案である事を暴露します。それを知ったM7は法案反対に回ります。

植木等扮する謎の男は、背広の裏に勲章代りのビール瓶の栓をいっぱい貼り付けていて、実は精神病院から抜け出した男と分かりますが、えらそうな国会議員が居眠りしたりロクに法案を読んでなくて、頭のおかしい男の方が正論を言い真実を見抜いていた、というのが痛烈な皮肉になってます。植木等、大演説をぶち、法案を通そうとする議員たちと乱闘するなど大暴れ。さすが無責任男の本領発揮です。
大聖コンツェルンの会長は、法案を通す為にM7を議員にしてやったのに、反対に回って裏切られたと大激怒、M7に殺し屋を差し向けます。殺し屋に狙われたM7は車を運転して逃げますが、追っかけて来た殺し屋に銃撃され、車のボディが次々吹っ飛ばされて運転席だけになってしまい、最後はハンドルだけを握って、下はパンツ1枚、背中にナンバープレートという姿で国会議事堂に向って走って行くという、もうほとんどマルクス兄弟並みのナンセンス・ギャグには場内大爆笑でした。

政界の黒幕に議員にさせて貰った男が、正義を通した為に苦境に陥る、という展開は、フランク・キャプラの「スミス都へ行く」を思わせますね。
最後は、M7は鈴木の体から抜け出して、寂しくα星に帰るのですが、追って来た零八の報告で、M7の努力のおかげで戦争法案反対の世論が巻き起こり、法案は廃案になった事が伝えられます。長官からよくやった、望みはないかと聞かされたM7は、地球で暮らしたいと望み、希望通り地球人になって、遊園地の片隅で綿菓子を売る男となります。
そこに和子がやって来てM7に綿菓子を注文しますが、その側には本物の鈴木太郎(桜井センリ)が。和子は本物の鈴本太郎と結婚していたのです。無論M7の顔など覚えているわけがないので、和子は知らん顔して去って行きます。
M7は寂しく二人を見送る所で映画は終わります。
とにかく楽しい、笑いっぱなしの快作コメディでした。こんなに笑ったのも久しぶり。
しかしまあ、コメディでありながら、前半ではかなり大胆な自衛隊憲法違反論や軍需産業批判、武器輸出批判があり、後半では知名度の高いタレントが簡単に国会議員になってしまう当時の実態への批判もあり、政界の黒幕の暗躍あり、こっそり戦争が出来る法案が通りかけたりと、何とも痛烈な社会情勢、政治状況への風刺、皮肉がぎっしり詰め込まれた、ある意味問題作と言えるでしょう。
よくまあこんな映画が作られたものだと思うでしょうが、当時のクレージー・キャッツ映画は何を作っても大ヒットするので、東宝も口出し出来なかったのでしょう。実際、試写を見た東宝も面食らったようで、「宣伝では社会風刺をあまり強調しないように」と上映館にお達しが出たそうです(笑)。
脚本の田波靖男は、おそらく坪島監督やクレージーきってのアイデアマン谷啓とも相談しながら書いたのでしょうが、いい仕事をしています。なんと併映の「アルプスの若大将」の脚本も書いてます。大忙しですね。
今や、当時では無理だった武器輸出も、“戦争法案”も実現に至ってしまいました。60年前のフィクションが現実になったわけで、その先見性に驚かされます。凄い事を坪島孝監督はやっていますね。委員会方式が主流の今の時代では、まずこんな映画は作れないでしょうね。
というわけで、本作はその内容からしても時代を先取りした痛快風刺コメディとして、今こそ再評価すべき作品ではないかと私は思っています。
キネマ旬報ベストテンでは、やはりと言うか誰も1票も入れていませんでした。
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