B級娯楽映画 第137位 「エノケンのちゃっきり金太」
エノケン主演映画は、どこかの劇場かホール上映か、記憶が定かではないのですが、何本かまとめて観ました。その中でも本作が一番面白かったと記憶しています。
エノケンはとにかくよく歌う、そしてよく動く。本作は特に、ややドジな巾着切り(スリ)のエノケンと、隙あらば現行犯で捕まえようとする岡っ引きとの、追いつ追われつのドタバタ喜劇が全編に渡って展開されます。これはジョンストン・マッカレーの探偵小説「地下鉄サム」を下敷きにしているようです。
監督は、エノケン映画を何本も撮っている山本嘉次郎。黒澤明や谷口千吉、本多猪四郎の師匠としても知られ、1941年の「馬」では黒澤明が助監督を務めていて、名作として知られています。そんな名監督が、こんなドタバタ・コメディを何本も手掛けている、というのも面白いですね。
ただ残念な事に、本作のオリジナルは前後編の二部作で、 前篇:74分、後篇:62分、計136分の作品なのですが、現在はこれを72分に縮めた総集編しか現存していなくて、私が観たのもその総集編です。オリジナルから64分もカットされているので、所どころ話が繋がらなかったり、主要人物が途中でいなくなったりするシーンがあります。それでも充分面白い作品になってました。
映画は冒頭、舞台小屋でエノケンが名調子の前口上で、本作のあらましを語っているシーンから始まります。カメラが小屋の覗きからくりのレンズに近づくと、そのレンズの中でタイトルとスタッフ・クレジットが続き、配役に移ると、漫画家・横山隆一が描く出演者の似顔絵に合わせてエノケンが、演じる俳優の役柄について簡単に紹介します。二村定一演じる
飴やの三次は、実は徳川方のスパイ、等と解説してくれます。中村是好演じる岡っ引の倉吉は、“金太を狙っているGメン”と紹介されるのが楽しいですね。
時代は幕末の1868年、官軍の一隊が錦の御旗を掲げて行進しています。世の中は騒然としていますが、そこに「然るに、江戸の一角では」と字幕が出て、芝居小屋で女性のレビューが開催され、大賑わいの様子が描かれます。音楽が同年(1937年)に流行った「あゝそれなのに」(空にゃ今日もアドバルーン♪)なのには笑いましたね。この後も同時代に流行った流行歌が次々登場します。
そんな所に薩摩藩の侍が傍若無人な態度で割り込んで、庶民の楽しみを邪魔しますが、侍たちが気がつくと、全員財布をスられています。岡っ引の倉吉(中村是好)が、これは巾着切りの金太(エノケン)の仕業に違いないと、探索を開始します。
以後倉吉は、金太のスリの現場を押え、捕まえようとしますが、金太もシッポを掴ませず巧みに逃げ回り、この攻防が最後まで続く事となります。
笑えるのが、金太がクシャミをすると、必ず倉吉が近くに現われます。クシャミは倉吉接近のアンテナみたいな物でしょうか。これは最後までギャグとして使われます。
ところが、金太のスった財布の中には、薩摩藩の大事な密書が入っていた事から、薩摩藩の一行も金太を捕まえようと動き出すので、金太は倉吉と薩摩藩の両方から追いかけられる事となります。
金太行きつけの居酒屋、上州屋の娘おつう(市川圭子)は金太に恋しており、思いを金太にぶつけますが、金太は「女は仕事の邪魔」と相手にしません。それでも思いを捨てられないおつうの気持ちに、金太も心が揺れます。
金太は薩摩藩士たちから逃げる為、東海道を西に旅しますが、その後を倉吉が追います。金太が乗った駕篭を、同じく駕篭に乗った倉吉が追い、両方の駕篭がフルスピードで走ります。ついには金太は駕篭を降りて走って逃げますが、倉吉も同じく走って追いかけます。この動きをカメラがコマ落しで撮っているのも笑えます。
江戸でも東海道中でも、エノケンは替え歌も交え、よく歌います。その歌が「二人は若い」(1935)とか「うちの女房にゃ髭がある」(1937)など昭和の新しい歌ばかり。シネ・オペレッタと言うか、ミュージカル・コメディの味わいがあります。金太が風呂で歌ってたのが♪一つ出たホイのよさほいのホイ♪の「よさほい節」。これ私の若い頃には春歌として流行ってましたよ(笑)。
大井川では長雨で川止めとなり、金太も倉吉も仲良く相部屋で投宿する事となります。ここでも追って来た薩摩侍と鉢合わせで、金太が狭い宿の中を逃げ回るドタバタ劇が展開されます。
そんな時、同宿の飴やの三次(二村定一)が金太をかくまってくれたりします。以後も何度か三次は金太たちを助けてくれます。
この宿に泊まっている美人のおすみ(花島喜世子)に倉吉は鼻の下を伸ばしますが、実はおすみはスリで、倉吉も着物ごと全財産をスられてしまいます。しかしおすみがスリである事を見抜いた金太の活躍で、倉吉の着物と財布は戻ってきます。「鼻の下にご用心」の金太の書置き付きで。この辺り、宿敵でありながらも金太と倉吉の間にはどこか友情のような物が生まれているようですね。
まあ、なんやかやと騒動を起こしたり、何度も薩摩藩の侍に追いかけられたりしながらも、最後は金太は江戸に戻ってきますが、江戸では上野戦争で彰義隊と官軍の対立が激しくなり、町民は官軍の命令で引っ越しを余儀なくされます。上州屋も引っ越しを決意しますが、おつうは、金太が帰って来た時、店がなかったら困るだろうと、父に隠れて店に舞い戻ったりします。
金太と倉吉は、官軍の軍服を着て官軍に紛れますが、何度も隊長に怪しまれたりするドタバタも笑えます。
最後は、上野戦争の砲弾の中、おつうは金太と無事再会します。建物が崩れて落ちて来ても二人がピンピンしてるのは、エノケンゆえ許しましょう。
そして明治20年、金太とおつうは仲睦まじく暮らしていますが、つい悪いクセで金太はすれ違った人の時計をスってしまいます。そこで金太がクシャミ、あ、いけねえと言った目の前に警察官となった倉吉が現われ、またしても金太は倉吉に追われ、逃げる所でエンドマークとなります。
総集編という事で、終盤はかなりカットされているようで、前述したように話が飛んだり、不得要領なシーンがあったり、、解り難いところがあるのが残念です。
それでも、エノケンの熱演と山本嘉次郎監督のテンポいい演出で、最後まで楽しめました。二部作の完全版を観たかったですね。
エノケンは実によく動きます。そして歌もうまい、軽妙な節回し、聴いてて惚れ惚れします。
エノケンの事ですから、山本監督にいろんなアイデアを提供していると思われます。今観ても、古さは感じません。
エノケン作品は他に「エノケンの法界坊」(1938・斎藤寅次郎監督)、「孫悟空」(1940・山本嘉次郎監督)を観ていますが、やはりどれも面白い。しかし動き回り走り回るエノケンが観られる、という点では本作が一番の出来でしょう。お奨めです。
(付記)
なおクレジットに、製作主任として谷口千吉の名前があります。多分助監督みたいな役割なのでしょうね。またクレジットにはないですが、セカンド助監督は黒澤明だそうです。
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