B級娯楽映画 第142位 「脱獄囚」(1957)
この作品は以前…丁度10年前になりますか、2016年7月に大阪・九条のミニシアター、シネ・ヌーヴォで開催された「生誕百年 映画監督・鈴木英夫の全貌」と題する特集上映で観る事が出来ました。
私は不覚にも、鈴木英夫監督の事は全くと言っていいほど存じ上げなくて、この特集上映で初めてその監督作品を観て、その面白さに魅了され、一気にファンになってしまいました。
とにかく、監督した作品がほぼすべて「B級娯楽映画」ばかりの為、映画評論家からは無視され、その上監督作品がビデオ、DVD化される事もなく(2016年現在で東宝でDVD化されているのは「黒い画集 第二話 寒流」(1961)の1作のみ!)、私のような映画ファンでさえ、その存在を知らないままでした。シネ・ヌーヴォさんのこの特集上映がなかったら、多分観る事もなかったでしょう。
本作はその特集上映作品の中で、私が観る事が出来た作品の中でも、ベスト3に入る傑作です(後の2本も順次取り上げる予定です)。
当ブログでも、この特集上映で観た作品について記事にしています(こちらを参照)。本作についても映画評を書いていますので興味ある方はリンクを辿ってみてください。
でもそれだけじゃこの142位の記事になりませんので(笑)、以下にその記事を再録しておきます。
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三人の死刑囚が脱獄し、うち二人は逮捕されるが、最後の一人山下(佐藤允)は逃げ延び、行方をくらました。彼の目的は、自分が逮捕された事で自殺した恋人の復讐に、検事と刑事・星野(池部良)の妻の命を奪うことだった。星野はその事を察知し、妻・節子を囮にして山下が現れるのを待った。やがて山下は星野の家を探しあて、庭の木蔭に潜伏して機会を狙っていたが、その姿を星野家の向かいに住む主婦克子(中北千枝子)に見られた山下は克子を脅し、彼女の家に潜んで、復讐の時を待ち続ける…。 脱獄囚に狙われた刑事夫妻に迫る危機を描いたスリラーである。佐藤允が復讐の鬼と化した脱獄囚を熱演。迎える刑事・星野(池部良)との、知力を尽くした対決が息詰まる迫力で手に汗握る。 (以下ネタバレあり) 妻を囮にしてまでも、犯人逮捕に意欲を燃やす星野も、犯人と同様執念に取り憑かれた男である。このキャラクター設定がいい。 クーラーがあるのが当たり前の今の時代では考えられないが、そんな便利なものがなかった当時は、夜でも窓を開けっ放しである。その為、窓際に節子が現れる度に、山下に狙撃されるのではないかという緊張感が漂う。かと言って窓を閉め切れば逆に怪しまれる。蒸し蒸しとし、じっとしてても汗が滲む初夏という季節設定が、さらにサスペンスをあおる。 山下に侵入された向かいの家の二階で寝ていた克子の娘が、こっそり脱出しようと布地を窓から垂らすが山下に気付かれ断念するのだが、その窓から垂れた布地を見て星野が克子の家に山下がいる事を察知する、というように、随所に伏線を配した脚本が素晴らしい。書いたのは「彼奴を逃すな」の村田武雄。「ゴジラ」映画で知られるが、サスペンス映画でもなかなかいい仕事をしている。 人質に囚われている隣家の家族の安全を守りながら、警察がどうやって山下を確保するか、命を狙われている星野の妻は助かるのか…最後に至るまでずっとスリリングなテンションが持続する、鈴木監督の演出手腕が光る、スリラー・サスペンス映画のこれは傑作である。 土屋嘉男がここでも刑事役を演じている。「殺人容疑者」、「彼奴を逃すな」、本作と、土屋は鈴木サスペンスで刑事づいている。ただ最後、山下に撃たれた土屋がその後どうなったのか全く描かれていないのが気になる。これが唯一の難点。まあ短い上映時間(87分)にたたみかけるスピーディな展開だから、観ている間は気にする余裕もないのだが。 “脱獄囚が人質を取って民家に立て篭もり、家族を守ろうとする人たちが脱獄囚と対決する”という展開は、ウィリアム・ワイラー監督の傑作サスペンス「必死の逃亡者」を思わせるが、ラストも警察に囲まれ、室外に出て来た山下が最後の抵抗を試みるもあえなく射殺される所が「必死の-」のラストと酷似している。 なおこの年(1957年)、鈴木監督作品は7月30日に「危険な英雄」、その約3ヵ月後(11月5日)にはもう本作が公開されている。こんな短期間で傑作を矢継ぎ早に作り上げてしまうのだから恐れ入る。 |
お読みになれば分かる通り、本作は1955年製作のウィリアム・ワイラー監督「必死の逃亡者」を巧みにアレンジした作品です。
同作と異なるのは、あちらが脱獄囚はハンフリー・ボガート以下3人組である点と、彼らに押し入られた家の主が善良なサラリーマン(フレドリック・マーチ)という点ですね。
それと本作の脱獄囚・山下(佐藤允)は、自殺した恋人の復讐の為に、池部良扮する星野刑事の妻・節子(草笛光子)を殺そうとする目的があるので、いつ節子の命が狙われるか、という緊迫した状況があります。この設定は「必死の逃亡者」よりずっとサスペンスフルで、手に汗握ってしまいます。また、向かいの家を巧みに利用する辺りも優れていて、脚本がうまいと思いました。
鈴木監督の演出も、既に何本ものサスペンス映画を手掛けているだけあって、緊迫感の盛り上げは見事なものです。ずっとハラハラし通しで気が抜けません。
脱獄囚を演じた佐藤允は、前年に東宝に入社したばかり。当時は無名で、日本人離れしたアクの強い風貌から、本作のような悪役での出演が続いていたそうです。
本作では悪役ながら、主人公の池部良と対等に渉り合う熱演で、当時観ていたら強烈に印象に残ったでしょうね。本作から2年後、佐藤は「独立愚連隊」で一躍ブレイクする事となります。
日本映画には珍しい、上質のサスペンス映画だと思いました。これが当時、まったく評価されなかったのは本当に残念です。
なお2022年に、ようやく「東宝DVD名作セレクション」として鈴木監督作品4作がDVD化されましたが、本作はその中に入っていませんでした。どこに目を付けてる、東宝!
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