B級娯楽映画 第136位 「蝿男の恐怖」
1958年・アメリカ 96分
製作:20世紀フォックス映画
日本未公開
原題: The Fly
監督:カート・ニューマン
原作:ジョルジュ・ランジュラン
脚本: ジェームズ・クラヴェル
撮影:カール・ストラス
音楽:ポール・ソーテル
製作:カート・ニューマン
ジョルジュ・ランジュランの小説「蝿」を映画化した、SFホラーの古典作品です。後にデヴィッド・クローネンバーグ監督により「ザ・フライ」(1986)としてリメイクされました。それくらいオリジナルの本作は評価が高いのですが、日本では劇場未公開で、現在に至るも劇場公開はされておりません。私は最初はテレビで観て面白いと思い、その後ビデオでも何度か観ました。それくらい好きな作品です。
世界名作ベスト150の方では劇場未公開作品はありませんが、こちらのベストではB級作品中心という事で、未公開作品も対象とします。何でもありです(笑)。
(以下ネタバレあり)
舞台はカナダ・モントリオール。ある電子機器工場で、夜警が夜の工場内を見回っていると、プレス機の操作音がし、その方向に行くと、プレス機の側から逃げて行く女性を発見、近づいてみると、血だらけのプレス機に挟まれた死体を見つけ驚愕します。
同じ頃、その電子工業会社を経営しているフランソワ・ドランブル(ビンセント・プライス)の元に、義妹のエレーヌ(パトリシア・オーウェンズ)から電話があり、夫のアンドレ(アル・ヘディソン)を殺した、すぐ来て欲しいとの事でした。にわかに信じられないフランソワ。しかしその直後に工場の夜警からも、プレス機に挟まれた死体を発見、女が逃げて行ったとの報告があり、エレーヌの言った事は本当だと確信し、友人のシャラス警部(ハーバート・マーシャル)に連絡して一緒に工場に向かいます。
死体は、頭と片手を潰されており、足の古傷からフランソワの弟で、エレーヌの夫・アンドレだと断定されます。フランソワはプレス機の操作盤を見て、機械が2度動かされている事を発見します。
警部が殺した理由を訊いても、エレーヌは「お答え出来ません」と言うだけです。その顔は何故かほっとしたような表情です。警部は精神異常を疑い、エレーヌは入院させられます。
二人の夫婦仲はとても良かったと誰もが証言します。そんな愛している夫を、エレーヌは何故殺したのか、プレス機は何故2度操作されたのか…。さらにエレーヌは何故かハエの羽音に異常に敏感で、ハエを殺そうとした看護婦に「殺さないで」と懇願します。
まさに謎だらけの、ミステリー的出だしです。ハエが何か鍵を握っている事だけは観客にも分かりますが。
フランソワによると、優秀な物理化学者のアンドレは、空軍の委嘱で何かを研究していたようなのですが、何を研究していたかはフランソワにも教えてくれません。フランソワと警部は研究室に行きますが、中の機械類は滅茶苦茶に壊されていました。これも謎です。
アンドレ夫妻の子供・フィリップ(チャールズ・ハーバート)はフランソワに引き取られますが、フィリップは「頭の白いハエを見た」と言います。エレーヌもそのハエを必死に探していた様子です。
その話を聞いたフランソワは、病院でエレーヌに会い、「君の探しているハエを見つけた。真実を話してくれ。言わないならハエを警察に渡す」と言います。無論ハエを見つけたという話は嘘です。
そこでエレーヌはようやく、この事件の真相を語り始めます。ここからやっと、SF的展開となります。
アンドレが研究していたのは、物体を瞬時に別の場所に移動させる物質転送機です。物体を原子レベルまで分解し、それを電波を通して移動させ、転送先で元の状態に戻すのです。
アンドレは妻に転送実験を見せます。「これが完成すれば、自動車も鉄道も飛行機もいらない。世界中にこの機械を置けば、人の移動も食料の輸送も簡単になる。飢饉もなくなる。人類の不安は解消できるんだ」と熱っぽく語ります。

最初の頃は文字が反対になったり、実験に使った猫が転送中に消滅したりと失敗を重ねますが、遂に動物の転送にも成功します。アンドレはお祝いしようとエレーヌに言いますが、彼女は「神を冒涜するようで恐ろしい」「時代の変化が早すぎて怖くなる」と言いますが、アンドレは「テレビやレントゲンは怖くないだろう?」と意に介しません。世紀の発明に、すっかり有頂天のようです。ノーベル科学賞も取れると思っているでしょう。
それでもエレーヌは「進歩が速すぎて、ついて行けない」と洩らします。この言葉は後述しますが、重要な意味を持ちます。
ところがある時から、アンドレは研究室にこもったきり出て来なくなります。食事を届けに行っても、物も言わず受け取るだけ。そして頭からすっぽりと黒い布を被っており、左手はポケットに入れたままです。
そのうち、アンドレはタイプで打ったメモに「実験に失敗した、頭の白いハエを探して欲しい」と書いてエレーヌに渡します。エレーヌは意味が分からないままに、家政婦や息子の手を借りて頭の白いハエを探しますが、見つかったと思ったら逃げ出したりでなかなか捕まえられません。
やがてアンドレは真相を手紙にしてエレーヌに見せます。アンドレが自分自身を実験台として転送を行なった時、転送機内に1匹のハエが紛れ込んでいた為、空中で両者の原子が混ざりあって、アンドレの頭部と左手がハエと入れ替わってしまったという訳です。頭の白い(つまり頭と左足だけがアンドレの)ハエを捕まえ、もう一度両者を同時転送させれば元に戻るかもと考えたのです。でも私の想像では、もっと酷い怪物になってしまうのではと思いますが。リメイク版がそうでしたね。
アンドレが、いよいよハエの頭を見せるのは、終盤の始まってから73分辺りです。エレーヌがうっかり頭の黒布を取ってしまい、そのハエ頭を見て悲鳴を上げますが、出色なのはその際、複数のエレーヌの顔が画面いっぱいに並んでいる映像で、ハエの複眼の眼で見ればあんな風に見えるという事でしょうね。

アンドレはやがて、「神を恐れぬ実験をした報いだ」、「意思が失われて行く、もう限界だ、考える事も出来ない」とエレーヌに伝え、殺してくれと懇願します。黒板に震える手で"I Love You"と書きつけるのが涙を誘います。
アンドレは転送装置を破壊し、研究ノートも燃やして、この“人類に災厄をもたらしかねない悪魔の発明”を自分の命ごと葬り去ろうとします。これは我が「ゴジラ」(1954)の芹沢博士(平田昭彦)の行動を思い起こさせますね。
そしてエレーヌは、アンドレの願いを聞き入れ、プレス機で彼のハエ人間の痕跡を消し去ったのです。機械を2度動かしたのは、1度目でハエの左手を潰し損ねたからでした。
エレーヌの話を聞き終えたフランソワとシャラス警部は、まだ信じられない様子。夫を殺した事実は覆せないと警部はエレーヌの逮捕状を取ります。精神錯乱という事で刑務所送りとはならないが、一生精神病院暮らしだと警部は言います。
だがエレーヌを逮捕し身柄を送致しようとした時、息子のフィリップが「庭に頭の白いハエがいる」とフランソワに教えに来ます。フランソワは警部と一緒にそこに行くと、蜘蛛の巣に引っかかった頭がアンドレのハエが、蜘蛛に食べられそうになっていて、ハエはか細い声で「助けてくれ」と叫んでいます。
シャラス警部はあまりに信じられない光景に気が動転したのか、蜘蛛だけを殺そうとしたのか、その上に石を落して、結果ハエも潰されてしまいます。

それを見たフランソワはシャラス警部に、「頭がハエの人間を殺すことも、頭が人間のハエを殺すことも同じことで、あなたも人殺しだ」と告げます。
この言葉に打ちのめされた警部は、事件はアンドレの自殺として処理する事とし、エレーヌは無事釈放されます。
数日後、フランソワとエレーヌとフィリップの3人が、仲良く談笑する姿を捉えて映画は終わります。
SFホラーとジャンル分けされていますが、出だしは殺人事件の謎を追うミステリー・タッチで始まり、ショッキングなシーンもありますがホラー要素は少なく、最後は夫を思う妻の夫婦愛で締めくくられる、ちょっと変わった味わいの異色作です。
何よりも本作は、行き過ぎた科学の発達は、人類を幸福に導くのか、それとも災厄をもたらすのか、という、SF映画の重要なテーマが提起されている点で、これは後に続く多くのSF映画(コンピュータの反乱等)でも度々打ち出されるテーマですが、本作はその嚆矢と言えるかも知れません。
今の時代、例えば“高度なA.I.が暴走し人間の制御が効かなくなる”という危険性が現実味を帯びているように、本作が訴えたテーマはますます重要なものになっていると言わざるを得ません。
本作は評判を呼び、「蝿男の逆襲」(1959)、「蝿男の呪い」(1965)の2本の続編が作られています。リメイク作「ザ・フライ」も続編が作られました。
また、本作の影響を受けた作品は映画、漫画、アニメを問わず数多く作られています。
1960年の東宝特撮映画「電送人間」には、まったく同じ発想の“人間電送”マシンが登場しますし、漫画「ドラえもん」に登場する“どこでもドア”は瞬時に人間が移動出来るという点で、まさしく物質転送機と言えるでしょう。
その他手塚治虫の「鉄腕アトム」にも、物質電送機のアクシデントで人間が他の動物等と融合したモンスターになってしまうという、本作のアイデアをまるまる戴いたエピソードが登場します。(詳細はhttps://ja.wikipedia.org/wiki/ハエ男の恐怖参照)
こんな具合に、後の作品に多くの影響を与えたという点でも、本作は後世に残る名作と言えるでしょう。これが日本未公開のままなのは、本当に残念です。
SF映画ファンなら観ておくべき秀作です。
(付記)
脚本にジェームズ・クラヴェルの名前がありますが、この人は本作の後、1962年に大戦中の日本軍による米英捕虜収容所を舞台とした小説「キング・ラット」を発表し、これは1965年に映画化されました。本人も実際に日本軍捕虜となった経験があります。何やら「戦場にかける橋」のピエール・ブールとそっくりな経歴ですね。
その後も脚本家として、ジョン・スタージェス監督の「大脱走」(1963)や同じスタージェス監督「サタンバグ」(1964)等の脚本を書き、1967年にはシドニー・ポアチエ主演の心温まる佳作「いつも心に太陽を」の脚本・監督を手掛けました。そして1980年に大ヒットしたミニ・テレビシリーズ「将軍 SHŌGUN」の原作を書きました。これは2024年にもリメイクされるほどの人気作です。
こういう錚々たる経歴の人が、脚本家としてのデビュー作がSFホラーの本作とは面白いですね。
| 固定リンク









コメント