2006年1月 7日 (土)

「キル・ビル Vol.2」

Killbillvol2 2004年・アメリカ
製作:バンド・アパート=ミラマックス
配給:ギャガ=ヒューマックス
原題:Kill Bill vol.2
監督:クエンティン・タランティーノ
脚本:クエンティン・タランティーノ
撮影:ロバート・リチャードソン
美術:デイヴィッド・ワスコ、ツァオ・ジュウピン
音楽:The RZA、ロバート・ロドリゲス
製作総指揮:ボブ・ワインスタイン、ハーヴェイ・ワインスタイン、エリカ・スタインバーグ、イー・ベネット・ウォルシュ
製作:ローレンス・ベンダー

復讐に燃える女性殺し屋の旅を描いたドラマの第2部(完結編)。監督・脚本は「ジャッキー・ブラウン」のクエンティン・タランティーノ。出演は「ペイチェック/消された記憶」のユマ・サーマン、「バード・オン・ワイヤー」のデイヴィッド・キャラダイン、「ウォーク・トゥ・リメンバー」のダリル・ハンナ、「007/ダイ・アナザー・デイ」のマイケル・マドセン、「フル・ブラッド」のゴードン・リュー、「フロム・ダスク・ティル・ドーン」のマイケル・パークス、「S.W.A.T.」のサミュエル・L・ジャクソンほか。

続きを読む "「キル・ビル Vol.2」"

| | コメント (0)

「キル・ビル」

Killbillvol1 2003年・アメリカ
製作:バンド・アパート=ミラマックス
配給:ギャガ=ヒューマックス
原題:Kill Bill Vol.1
監督:クエンティン・タランティーノ
脚本:クエンティン・タランティーノ
撮影:ロバート・リチャードソン
美術:種田陽平、デイヴィッド・ワスコ
音楽:THE RZA
アニメーション制作:プロダクションI.G.
製作総指揮:ボブ・ワインスタイン、ハーヴェイ・ワインスタイン、エリカ・スタインバーグ、イー・ベネット・ウォルシュ
製作:ローレンス・ベンダー

復讐に燃える女性殺し屋の活躍を描いたヴァイオレンス映画の第一部。監督・脚本は「ジャッキー・ブラウン」のクエンティン・タランティーノ。出演は「テープ」のユマ・サーマン、「チャーリーズ・エンジェル」シリーズのルーシー・リュー、「007/ダイ・アナザー・デイ」のマイケル・マドセン、「ウォーク・トゥ・リメンバー」のダリル・ハンナ、「バード・オン・ワイヤー」のデイヴィッド・キャラダイン、「風雲 ストームライダース」の千葉真一、「バトル・ロワイアル」の栗山千明ほか。

続きを読む "「キル・ビル」"

| | コメント (0)

2006年1月 6日 (金)

「北の零年」

Kitanozeronen2005年・東映=テレビ朝日、他
配給:東映
監督:行定 勲
脚色:那須真知子
製作総指揮:岡田裕介、坂本眞一

明治初期の北海道を舞台に、運命に翻弄されながらも屈することなく自分たちの国作りに挑んだ人々の姿を、史実を基に描いた歴史群像ドラマ。監督は「世界の中心で、愛をさけぶ」の行定勲。脚色は「DEVILMAN」の那須真知子。撮影を「阿修羅のごとく」の北信康が担当している。主演は、「風の舞 闇を拓く光の詩」の吉永小百合と「ラスト サムライ」の渡辺謙、「丹下左膳 百万両の壺」の豊川悦司。文化庁支援作品。

続きを読む "「北の零年」"

| | コメント (0)

「サマータイムマシン・ブルース」

Summertimemachineblues 2005年・日本   107分
配給:東芝エンタテインメント
監督:本広克行
原作:上田誠
脚本:上田誠
撮影:川越一成
プロデューサー:本広克行、安藤親広

京都の劇団「ヨーロッパ企画」による舞台劇「サマータイムマシン・ブルース2003」の映画化作品。タイムマシンを巡って思いがけない事態に巻き込まれる学生たちの姿を描く青春コメディ。監督は「踊る大捜査線」シリーズの本広克行。舞台劇に惚れ込んだ本広監督が自ら初プロデュースも手がけて完成させた。出演は映画初主演となる瑛太、ヒロインに「スウィングガールズ」の上野樹里、その他ムロツヨシ、真木よう子、佐々木蔵之介らが顔を揃える。

続きを読む "「サマータイムマシン・ブルース」"

| | コメント (0)

2006年1月 4日 (水)

「お父さんのバックドロップ」

Farthesbackdrop(2004年・シネカノン/李 闘士男 監督)

軽妙なエッセイや、長編小説「ガダラの豚」で知られる、中島らもの原作小説の映画化。ミニシアターのレイトショーで観たのだが、これは見事な快作である! 楽しくて、微笑ましくて、そして最後に素晴らしい感動が待っている。これぞ、誰が観ても泣けて感動できる、エンタティンメントの王道である。大衆娯楽映画としては、本年屈指の力作である。おススメ。

主人公は2流プロレス団体に所属する中年プロレスラー、下田牛之助(宇梶剛士)。彼には10歳になる息子・一雄(神木隆之介)がいるが、年中巡業で、妻が死んだ時にも帰ってやれなかった為、一雄からは嫌われている。興行が思わしくない所属団体の危機を救う為、髪を金髪に染め、ヒール(悪役)に転向した父の姿を見て、一雄はプロレスも父もますます嫌いになる。そんな一雄の反抗心を見た牛之助は、息子の信頼を取り戻す為、折から来日した極真カラテのチャンピオン、ロベルト・カーマン(エヴェルトン・テイシェイラ)に無謀な挑戦状を叩きつける。年齢的にも、体力的にも、とても勝ち目のない相手にコテンパンに痛めつけられながらも、それでも牛之助は必死で戦いを挑む。その姿を見た一雄は、初めて父を応援する気になり、会場に向う。そして、映画は感動のクライマックスを迎える…。

物語としては、昔からよくあるパターンで、「チャンプ」や、「ロッキー」や、ロバート・アルドリッチの快作「カリフォルニア・ドールス」あたりを立ちどころに思い起こすことが出来る。そして何より、“ショボくれたチームが、明らかに劣勢な状況の中で、最後の最後で大逆転勝利する”―という、私の大好きな、正しい娯楽映画の王道パターンをきちんと踏んでいる点がいい。しかもそこに愛らしくけなげな子供を絡ませ、泣かせる要素をうまく取り入れている。これが娯楽映画のツボである。本作はさらに、舞台を関西に持ってきて、松竹新喜劇ばりの、下町の人情噺の味わいも含ませている。私は主人公たちの行きつけの焼肉屋で、母を手伝い甲斐甲斐しく働く、一雄と同い年の少年(阪本順治監督「ぼくんち」でも好演の田中優貴)を見て、はるき悦己のマンガ「じゃりんこチエ」を思い出した(この少年の役名が、テツであるのは偶然か(笑))。

この映画が泣けるのは、そうした要素をバックに、仕事一筋に打ち込んで家庭を顧みなかった中年男が、勝ち目のない戦いに果敢に挑み、その姿を愛する息子に見せる事によって、父親としての威厳を回復して行く、そのひたむきな姿に心打たれるからである。子供を持つ中年世代にとっては、これはまさに身につまされる話である。打たれても、血みどろになっても、その度に立ち上がって来る牛之助の姿に、リング席の観客の間から“牛之助”コールが巻き起こって来る。これは感動的である。映画の観客である我々も、つい立ち上がり応援したくなるくらい胸打たれ、そして涙が溢れて来るのである。無論私も泣いた。ポロポロ泣けた。パターンだと分かっていても、これは泣ける。そして、我々も、家族のために頑張らなければ…と思うのである。仕事に疲れた人、親子の対話に悩む父親は、是非この映画を観て欲しい。きっと元気になれるはずである。

牛之助を演じた宇梶剛士が、映画初出演とは思えない快演を見せる。一本気で、人情家で、体力の衰えを隠せない年代になっても、プロレスに一途に打ち込む中年男の哀愁を体で表現している。そして息子を演じた神木隆之介クンが素晴らしい。天才である。これほど観客の心を掴む子役が登場したのは何年ぶりだろう。大事に育って欲しい。これが監督第1作となる新人、李闘士男、お見事。今後の活躍も期待したい。なお、脚本を書いたのは「血と骨」などの売れっ子、鄭義信。個人的には本年度脚本賞を与えたい。

原作者の中島らもが、散髪屋の役でカメオ出演している。惜しくも突然の事故で急逝したが、亡くなる前にこの映画を観て、とても感動したとの事であり、何よりである。冥福を祈りたい。

それにしても残念なのは、これほど感動出来る力作(掲示板でも感動の声が多い)が、何故ミニシアターで、細々と公開されなければならないのか。これは全国規模で、是非多くの人に観せるべきである。こうした作品がヒットし、多くの観客を呼ぶようになってこそ、日本映画は面白くなるはずである。    (採点=★★★★☆

(2004年12月3日)

 ランキングに投票ください → にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ    ブログランキング

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2006年1月 3日 (火)

「五線譜のラブレター DE-LOVELY」

(MGM=20世紀フォックス:アーウィン・ウィンクラー 監督)

数々の名曲を世に送り出した作曲家、コール・ポーターの伝記映画。

音楽家の伝記映画と言えば一時は盛んに作られていた(ジョージ・ガーシュイン=「アメリカ交響楽」、エデイ・デューチン=「愛情物語」「グレン・ミラー物語」等々)。最近はあまり作られなくなっていたように思う。で、コール・ポーターと言えば、「夜も昼も」、「ビギン・ザ・ビギン」、「オール・オブ・ユー」、そして「インディー・ジョーンズ・魔宮の伝説」の冒頭のミュージカル・シーンに使われた「エニシング・ゴーズ」などで広く知られた作曲家であり、またMGMを中心としたミュージカル映画「踊るアメリカ艦隊」「踊る海賊」「キス・ミー・ケイト」「上流社会」「絹の靴下」などにも楽曲を提供しており、ミュージカル映画ファンには特になじみの深い伝説の作曲家であるとも言える。ちなみに、既に1946年に、「夜も昼も」という題名でコール・ポーターの伝記映画が作られている(ポーターに扮したのはケーリー・グラント)。この時はまだポーターは存命で(没年は1964年)、いわゆる半生記であった。

で、本作は、死を目前にしたポーターが、友人の案内で劇場において彼自身の半生のドラマを眺める…というちょっと変わった趣向。ポーターに扮したのは名優ケヴィン・クライン。最愛の妻リンダを演じたのはアシュレイ・ジャッド。基本としてはポーターと妻の深い夫婦愛をしっとりと描いているのだが、「夜も昼も」と違うのは、ポーターが実はゲイであった事を暴露している点で、このあたりはいかにも今ふうである。しかしまた、妻も深く愛しており、リンダの死を看取るシーンは感動的であった。ラストは、ポーターの孤独感が悲痛で、胸を締め付けられる。

監督のアーウィン・ウィンクラーは、'70年代に「いちご白書」「ひとりぼっちの青春」等の傑作青春映画、そして「ロッキー」シリーズを製作した名プロデューサーであり、最近では「海辺の家」「勇者たちの戦場」等、しみじみとした佳作の監督としても活躍している。本作も見応えのある作品に仕上がっている。

映画ファンとして楽しいのは、舞台や街頭で歌い、踊るミュージカル・シーンがふんだんに登場する場面で、よく考えればこの映画の製作会社はかつてミュージカル映画の傑作を量産していたMGM!。中でも「ピエロになろう」(Be a Crown)という楽しいミュージカル・ナンバーは、MGMミュージカルの大傑作「雨に唄えば」の中でドナルド・オコナーが歌った"Make 'em Laugh"を思い起こさせ、特に感慨深かった。ポーター・ファンや、とりわけMGMミュージカル・ファンは必見であるとお薦めしておく。       (採点=★★★★

(2004年12月7日)

| | コメント (0) | トラックバック (0)

連句アニメーション「冬の日」

Fuyunohi_2(2003年・IMAGICAエンタティンメント:
川本 喜八郎 総合監修) 

これは、非常に珍しい(と言うより世界初の)連句アニメーションである。

連句とは、複数の歌人が前の人の下の句を受け、自分の句を鎖のようにつなげていく合作の文学形式…というものである(最初に詠まれる「発句」が独立して「俳句」になったといわれている)。中では、松尾芭蕉による七部集「冬の日」が有名であり、本作のタイトルはそこから取られている。

この作品は、その連句の形式で、世界中の錚々たるアニメ作家に、既存の連句を元に短編アニメを作ってもらい、それらを繋げて1本のアニメ作品として完成させたものである。

Fuyunohi2 中心となり、企画・監修したのは、日本のみならず世界的にも名高い人形アニメ作家の川本喜八郎氏。氏の呼びかけに、世界中から35人のアニメ作家が集まり、連句にインスパイアされた映像を競い合っている。集まった作家は、「話の話」などで知られるロシアのユーリ・ノルシュテイン、「老人と海」でアカデミー賞受賞のアレキサンドル・ペトロフ、「火童」が高い評価を受けた中国の王柏栄、「頭山」がアカデミー短編賞にノミネートされた山村浩二、そして名前を聞けば思い当たる日本有数のアニメ作家たち、久里洋二古川タク林静一小田部羊一高畑勲…等々であり、Fuyunohi3 アニメに興味のある人ならこれらの名前を聞くだけでもワクワクして来ることだろう。そして、作品を観たなら、アニメファンのみならず、アニメに関心のない方でも、その豊かなイマジネーションの広がりには感嘆するに違いない。それほど、1本1本の作品は(平均して1分前後のごく短い作品であるにもかかわらず)実に丁寧な作りで見応えがある。

単にアニメと言っても、実にさまざまな手法がある事が作品を観れば分かって来る。普通のセルアニメ以外にも、人形アニメ、切り絵アニメ、クレイ(粘土)アニメ、油絵アニメ、水墨画アニメ、CG、ピンスクリーン(無数の釘を出したり引っ込めたりして白黒を表現する)等々・・・まさに職人芸であり、見事な芸術である。公式サイトの予告編に、ノルシュテイン作品や川本氏の人形アニメがワンシーン出て来るが、風にそよぐ着物の動きだけを見てもその見事さの一端を窺い知る事が出来る(注:現在公式サイトは閉鎖。残念である)

35人による36本(川本氏が2本)のアニメそのものは45分程度だが、後半はそれら作家たちへのインタビューや製作過程を追ったメイキング編となっている。これがまた面白い。ノルシュテインのあの繊細な絵はどうやって作っているのかが見れるだけでも興味深い。

本作は、文化庁メディア芸術祭アニメ部門の大賞、毎日映画コンクールで大藤信郎賞(日本で一番権威のあるアニメ賞)を受賞し、キネマ旬報文化映画ベストテンでも3位に入るなど、さまざまな賞を受賞し、高い評価を受けている。残念ながら劇場公開は東京、大阪、名古屋のごく一部の劇場でのみの上映であり、あまり多くの人の目に触れられていない(私は家の近くで上映していたので幸運にも観る事が出来た)。
ビデオは出ているが、その繊細な描写は大きなスクリーンで隅々に至るまでじっくり見るのが望ましい。ともあれ、アニメに興味のある方は必見であり、また俳句・短歌に興味のある方も是非観ることをお薦めする。個人的には本年のベスト3に入れたいし、出来うるなら手元に置いて何度も眺めたい、これは素晴らしいアートの秀作である。    (採点=★★★★★

(2004年2月22日)

| | コメント (0) | トラックバック (0)

「東京ゴッドファーザーズ」

Tokyogodfarthers(2003年:ソニー・ピクチャーズ/監督:今 敏 )

これまで、「パーフェクト・ブルー」「千年女優」という、いずれも優れたアニメーションを監督して高い評価を受け、海外にもその名を知られる今敏が、またも傑作アニメを作り上げた。これは恐らく、アニメとしては本年度の最高作であるばかりでなく、日本映画全体の中でも屈指の傑作だと思う。

東京の街中で暮らすホームレス3人組が、クリスマスの日にひょんな事から捨て子の赤ん坊を見つけ、その親を捜し求めるうちに騒動に巻き込まれて行く…という物語。

笑いあり、涙あり、アクションもあればスリリングなサスペンスもありと、あらゆる娯楽的要素が盛りだくさん。特に、それぞれ心に深い傷を持つ、まったく縁もゆかりもない3人の男女が、行きがかりで一緒に赤ん坊の親を捜すうちに、次第に家族にも似た心の絆を強めて行く…という展開が心を打ち、単なるエンタティンメントに終わっていない。

この3人、ギャンブルにのめり込み、妻と子を棄てた中年男ギン(声:江守徹)に、おカマのハナ(梅垣義明)、家出した娘ミユキ(岡本綾)という組み合わせが父と母と子のようでもあり、言わば擬似家族を構成しているように見える(実際、ミユキの夢の中ではこの3人は本当の家族なのである)。物語の中には、さまざまな“家族”が登場し、それぞれに悩みを抱え、本当の家族像を模索し、苦闘する姿が描かれ、よく見ればなかなか奥が深い。そう言えば、ホームレス、捨て子という本筋以外にも、在留外国人犯罪者、ホームレス狩りの若者たち、ヤクザ…等が登場し、これはまた現代の日本が抱えるさまざまな病巣をもしたたかに描いた問題作でもあるのである。

しかしトータルでは前述のように、スリリングなエンタティンメントとしてうまくまとめており、ラストではギンもミユキもそれぞれ自分の家族の絆を取り戻すであろう事もさりげなく匂わせ、爽やかな余韻を残して映画は終わるのである。

観た人の間では、エンディングに向けてあまりにも偶然が重なり過ぎる…との不満の声もあるようである。しかしこれは、クリスマスの日に起きた奇跡…と考えれば十分納得できる。現実離れしたファンタジーの世界では、何が起きたって不思議ではない。クリスマスとの関連で言えば、フランク・キャプラの傑作ファンタジー「素晴らしき哉、人生!」をも思い起こせばよい。丁寧に作られ、感動さえさせてくれれば、どんなに都合よく物語が進んだって納得できるのである。

題名のゴットファーザーズとは、マフィアにあらず(笑)、ジョン・フォードの秀作「3人の名付親」原題"Three Godfathers"。3人の悪党が赤ん坊を町まで届ける話)から来ている。テーマやストーリーもこの作品からいろいろとヒントを得ていると思われる。

デビュー作「パーフェクト・ブルー」はサイコ・スリラー、「千年女優」は戦前戦後を生きた伝説の女優の半生記…と、1作ごとにまったく違うジャンルに挑戦しながら、いずれも成功させた今敏監督は、今やポスト宮崎駿を狙える、アニメ界のみならず、日本映画界のホープであると言えると思う。しかも1作ごとにエンタティンメント度を高めている。大人から子供まで、誰が観ても楽しめ、なお且つ考えさせられる、これは本年ベストを狙えるお薦めの傑作である。 
(採点=★★★★★

(2003年11月29日)

 ランキングに投票ください → ブログランキング     にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ

| | コメント (0) | トラックバック (0)

「ゼブラーマン」

Zebraman (2004年:東映/監督:三池 崇史)

 日本一忙しい監督・三池と、日本一忙しい脚本家・宮藤官九郎とが初めてコラボレーションを行い、これもまた映画にVシネマに大忙しの哀川翔が主演した、まさにユニークな組み合わせにふさわしい快作が出来上がった。

 主人公市川新市(哀川翔)は風采の上がらない小学校の教師。学校でも家でも影が薄い。しかし彼は、子供の頃に放映されていたテレビ特撮番組「ゼブラーマン」の隠れた大ファンで、自らミシンで作った手製のコスチュームをまとっては1人悦に入ってる…という、ややオタクな男。前半はこの市川のなんとも情けない、ドジで子供っぽい行動がコミカルに描かれて笑わせられる。 ところが中盤から、人間の体を乗っ取り、地球を侵略しようと企む宇宙人が正体を現わし、これに気付いた市川は次第に地球を守るヒーローになるべく、努力を重ねて行くのである。

 時々難解な作品を作ってしまう三池にしては、ごく判り易い正攻法の演出で、後半に向けてグイグイドラマを引っ張って行く。宇宙人に乗っ取られかけた自分の息子を救った事から、気の弱かった市川は息子にも励まされ、夢見るだけでしかなかった正義のヒーローに本当になろうと決意する。

 かつてのテレビドラマでは、ゼブラーマンは空を飛べなかったから負けた事を知った市川は、無謀にも空を飛ぶ特訓を積み重ねる。何度も何度も墜落し、コスチュームはボロボロになって行く。しかし息子の「お父さん、頑張って!」の声や、マドンナ、可奈(鈴木京香)にも励まされ、やがて彼は遂に本当の闘うヒーローに変身してしまうのである。このあたりは泣ける。

 可奈の息子で、足の悪い晋平が「勇気を出せば出来るんだ」と必死で立ち上がって見せようとするシーンにも胸が熱くなるし、その晋平が宇宙人に校舎から落とされた時、彼を救う為、遂にゼブラーマンが空を飛ぶ…このシーンはあの「E.T.」で自転車の少年たちが空に舞い上がるクライマックスを思い起こして涙が溢れそうになった。「信じれば、夢はかなえられる」というセリフが出て来るが、まさにこれは夢を信じ続けた男が、究極の夢を実現してしまう奇跡の物語なのである。

 「なぜ市川が空を飛べるのか分らない」なんてヤボを言う人はこの映画を楽しむ資格はない。映画そのものが現実にはありえない夢の世界を映像化する装置なのだから。
誰もがスクリーンに夢を投影し、そして我々と同じ等身大の普通のお父さんが、子供の為に、家族の為に戦い、奇跡のヒーローになれる…。それが映画である。子供の頃にスーパーヒーローが戦うドラマに夢中になった経験があり、大人になっても子供の頃の夢を忘れていない、子供を持った、ちょっと疲れたお父さんならきっと涙してしまい、そして元気になれる、これはそんな素敵な映画なのである。見るべし!     (採点=★★★★☆

 (2004年3月14日)

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2006年1月 2日 (月)

「人狼 JIN-ROH」

Jinrou_22000年・日本/配給:バンダイビジュアル=メディアボックス
監督:沖浦啓之
演出:神山健治
原作:押井 守
脚色:押井 守
キャラクター・デザイン:沖浦啓之、西尾鉄也
エグゼクティブ・プロデューサー:渡辺 繁、石川光久 

「攻殻機動隊 Ghost in the Shell」で世界に名をとどろかせたジャパニメーションがまたまたやってくれた。前作ではそのタイトなアクション描写とダークな世界観に賛辞が集まり、「マトリックス」を始め多くの映画作家に影響を与えることとなった。その「攻殻-」の監督である押井守が原作・脚本を書き、同作のキャラデザイン・作画監督を担当した沖浦啓之が初監督に挑戦したのが本作である。期待と注目が集まるのは当然であるが、沖浦監督、そのプレッシャーをはねのけ、見事な傑作に仕上げてみせた。

作品の流れとしては、「紅い眼鏡」「ケルベロス・地獄の番犬」に続くケルベロス3部作の最終作に位置付けられる。従って本当は前2作を先に見ておく方がいいのだが、本作のみを見ても十分面白い。何より、パラレルワールドとしての昭和30年代が舞台という設定が秀逸。実際の歴史では30年代後半から高度経済成長の道をひた走った日本は、平和ボケにバブル崩壊ととんでもない袋小路に陥ってしまうのだが、押井は「あの時代から歴史は折れ曲がってしまったのだ」とばかりに、もう一度戦後史をやり直そうとするかのようにもう一つの30年代を描いたのである。そして、そうした混沌の中で出会った男と女の愛の彷徨を、押井が敬愛してやまないアンジェイ・ワイダの「灰とダイヤモンド」の物語そのままにしっとりと描いている。

そう、戦争と体制の謀略に翻弄され、悲劇的な結末を迎えるという共通点から見てもこれはまさに押井版「灰とダイヤモンド」なのである。この映画がワイダ作品へのオマージュであるのは、前半の下水道内のシークェンスがワイダのもう一つの傑作「地下水道」そっくりであるのを見ても分かるだろう。これらの物語展開や迫真の都市ゲリラ戦、実写では到底再現不可能な30年代の東京下町のリアルな風景描写も含め、すべてのシーンがクオリティが高く、密度の濃い映像が凝縮されている。こういう完成度の高い映画を作ったのが、弱冠33歳!の新人監督であるというのも驚きである。

しかしこの監督・沖浦啓之のフィルモグラフィを見てまたまた驚いた。なんと16歳でアニメ界に飛び込み、19歳!で「ブラックマジックM-66」(注1)(「功殻機動隊-」の士郎正宗原作・脚本・監督)という、当時アニメファンの間ではカルト的な人気を博した傑作OVA(オリジナル・ビデオ・アニメ)の作画監督を担当(本稿を書く為押入れから出して再見したのだが、今見てもまったく古さを感じさせない、「ブレードランナー」+「ターミネーター」とでも言うべき力作である)。
その後も21歳で「AKIRA」、24歳「老人Z」、26歳「機動警察パトレイバー2」(注2)「MEMORIES」のそれぞれの原画を担当、28歳で前述の「攻殻機動隊」と、よく見ればこれすべて海外で高い評価を得ているジャパニメーションの傑作ばかりなのである。強運なのか、彼の参加によってクオリティが上がったのか、とにかくスゴい経歴の持主であり、押井が本当は自分で監督したかった本作を彼にまかせる気になったのもこれなら頷けるだろう。興行的にもまずまずだったし、何より海外の反響がすごい。宮崎駿の後継者はなかなか出てこないが、押井守の後継者は彼に決まりだろう。次回作は是非オリジナル作品を監督して欲しい。素晴らしい新人監督の誕生に惜しみない拍手を送りたい。    (採点=★★★★☆



(注1)ちなみにこの作品(「ブラックマジック-」)、わずか45分という短さにもかかわらずセル枚数は35,000枚!に達したという。その為、動きが実に滑らかで、全編たたみかけるアクションの連続に興奮させられる。なお士郎正宗と共同で監督を担当したのが「老人Z」の北久保弘之。後の傑作ジャパニメーションの精鋭が結集しているという点でもこの作品の歴史的価値は大きい。もっと評価されるべきではないか。

(注2)「パトレイバー2」は、キャラクター・デザインが1作目(原作コミックとほぼ同じキャラ・デザイン)とまるで違って顔に影がかかったり、すごくリアルなデザインとなっている。何故かよく分からなかったのだが、「人狼」のキャラクター・デザインが「パトレイバー2」とそっくりであったところからして、多分沖浦啓之の参加が影響しているのではないかと私はにらんでいる。(沖浦は1作目には参加していない)

(2000年9月1日)


「人狼」DVD
「人狼」ブルーレイ

| | コメント (0) | トラックバック (0)